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 大きな穴……? レンの言葉に眉を顰める。
 僕は別にマルチ人間ならぬマルチ猫(何か格好悪いな)な訳じゃないから欠如だってあるかもしれない。でもそれが一日で、それもちょっとしか一緒に過ごしていない人にバレるはずがない。いつだって慎重に、深く、深く考えて行動してきた。猫ってのは警戒心が強いからね。
 だからこの言葉は嘘に決まっている。只の僕を揺さぶる言葉だ。生憎だが、それに引っかかるほど単純じゃない。
 そういう考えに至り、レンに向かってニヤニヤとした顔を作ると意外そうに片眉をつい、と上げた。

「僕だって人間だもの。完璧じゃない。まあレンは完璧に見えるけど」
「そうか? それは光栄だよ」

 嬉しそうな声で両手を肩と同時に上げる。その演技めいた大袈裟な仕草に少しの違和感と苛立ちが湧いたけど、僕はそれを抑え込んだ。
 それにしても時間は大丈夫なのかな? 歩くスピードは遅めだからもしかしたら結構やばいのかも。でも僕は時計なんて持ってないし。バカウサギの時計に一寸の狂いはないからいつもは白ウサギに訊いてたんだよね。でもいないしなあ。うーん、どうしよう。

「どうした?」
「いや、今何時かなと思って」

 職員室がこんなに遠いなんて聞いてないんだけど。――……って、あれ? そういえばさっきから人が誰もいない。

「えーと、今はHRが始まる十分前だな」
「ふーん、そっか。でも何か静かだね。皆そんなに早くから教室に行ってるの?」

 こういうもんなのかな、学校って。レンは僕の質問に答えず、立ち止まって僕を見た。さっきまで笑みを浮かべていた顔は、人形のように無表情だった。
 ――警報が鳴り響く。ざわざわと胸が騒いだ。

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