▼ 僕は嗤う(嘘も方便)
「ヤマネって名前の知り合いがいるんだけどさ――」
「何言ってんだ! 俺のことはカズマでいいぞ!」
ふーん、"かずま"って名前だったの? えーと、愛称みたいな感じかな。よく分からないけどまあいいや。
「じゃあカズマ、程々に宜しくね」
別に宜しくしたくないけど、嘘も方便っていうじゃない? ちょっと話してて分かったけど、どうやらこのコは自分の思い通りになるまで考えを変えないらしい。考えを変えないって一見良いように思うけど、自分の思い通りにならないとってところが子どもだよね。自己中っていうか。まあつまり、素直に妄言でも何でも呟いとけば大丈夫って話さ。
僕は口端を上げ、弧を作る。
「おっ、おう!」
何故か顔を真っ赤にした(髪の隙間から見えた)カズマは笑った気がした。
うーん、でもどうしよう。早くアリスに会いたいなぁ。そんなことを思いながらネックレスの指輪を触る。これはアリスに貰ったもので、今の一番の宝物だ。
「カズマ!」
声に反応してピクリと猫耳が動く。知人の声ではない。それにカズマ、と目の前のこのコを呼んでいるからにはカズマの知り合いなんだろう。
「おう、隆一じゃんか!」
「遅いから迎えにきたぜ。門の前で何して……って、お前、誰だよ」
カズマの視線を辿っていくと金髪でウルフカットの男がやってきた。目は切れ長でつり目だが、全体的に顔は整っている。あー、何だかイカレウサギみたいな容姿だ。別にイカレてるとかじゃなくて、狼のような感じ。ていうか"りゅーいち"っていう不良くんは何で僕を睨んでいるのかな、親の敵みたいな目で。僕ってば弱いからさー、怯えちゃうよ? ――なんてね。イカレコンビなんて相手にしてたらこんなの大したことない。
「こいつは…――って、俺、まだお前の名前聞いてないぞ!」
「チェシャ猫だって」
「そんな嘘つかなくていいから! もしかして名前にコンプレックスでもあるのか!? 大丈夫だ、俺は笑ったりしないからな!」
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