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「キミ、コウイチだっけ?」
「誰がコウイチだ! 俺はリュウイチだ!」

 態と名前を間違えてみれば、やはり律儀に答えてきた。うん、合格だ(弄られキャラ的な意味で)。僕は口角を上げると首を横に傾けた。

「キミに提案があるんだけど」
「……提案?」

 不良君は訝しんだ目で僕を見る。まあそうだろうね。普通はそんなに簡単に人を信じないだろう。僕みたいなのなら尚更だ。っていうか信じられたら面白くないし今の所順風満帆なんだけどね。

「そう、キミにとってメリットになる提案だ」
「はっ…下らねぇ」

 心底馬鹿馬鹿しいという表情をして、もうこの話は終わりだとばかりに背を向けた不良君にそのまま言葉を投げつける。

「キミさあ、カズマのことが好きでしょ?」
「なっ!?」

 短く声を上げ、勢いよく振り返った顔には何で知っているんだと書かれていた。……いや、普通に見てて分かるよ? 分からないのなんてよっぽど鈍い奴だろう。例えばカズマとかね。いや寧ろカズマは狙ってやってるのか?

「…分かってんなら金輪際近づくんじゃねえ!」

 音を立てて近づいてきた不良君が僕の胸倉を掴み、自身に引き寄せた。所詮は人の子の力。イカレ帽子屋などの比ではない(イカレ帽子屋も人間ではあるけれど)。りゅーいちくんは表情の一つも変わらない僕を見て一瞬目を見開いた。

「僕の予想だとカズマを好きな人間は沢山いるんじゃない?」
「……それがどうした」

 ああ、やっぱりそうなんだ。なんていうか、蓼食う虫も好き好きってやつだね。あんなに礼儀がなくて不潔な格好をした人を好きになるなんて僕には有り得ないな。

「僕で良かったら協力するよ?」
「は?」
「僕は娯楽で生きてるようなものだから喜んで協力するよ。カズマは何でか僕に構ってくるし」
「……、」
「それにさ、僕とカズマが二人でいるより、キミがいた方が安全なんじゃない?」

 りゅーいちくんは押し黙り、考えるように視線を漂わせた。

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