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「ああ、目刺か」
「これ、しか、なかった。ごめ…」
「いや、僕が魚がいいって無理言ったんだし気にしなくていいよ。それに僕、目刺嫌いじゃないしね」

 そう言うとモトヤは安心したのか顔を綻ばした。ダイニングテーブルに真鰯の目刺、浅蜊と青葱の味噌汁、そして白米が並べられた。
 モトヤの料理は見た目も完璧だけど、味も完璧だった。かなりの魚好きな僕(猫だからね)は、ぺろりと食べ尽くしてしまった。モトヤは食べるのが遅いのか(いや、僕が早いだけかもしれない)、まだもぐもぐと頬張っている。それを観察していると、居心地が悪いのか視線を泳がしている。図体は大きいのに行動が一々可愛い。
 漸く頬張っていた物をごくりと飲み込んだモトヤは少し首を傾げて訊いてきた。

「きょ、一緒、行く?」
「そうだね。でも僕、一回職員室に行かないと」
「じゃ、そこ、一緒…」

 そこまで一緒に行く、という言葉は助かった。だって僕、職員室って所に行く道を知らないからね。そう言えば、僕って何年生なんだろう。一年生だったら嫌だなあ。だって上の学年の人に敬語とか使わないといけないんでしょ? そんなの無理に決まってる。自分の年齢とか覚えてないけどさ、明らかに年下だよ、皆。
 Yなら知ってるはずだけど……って、態と言わなかったな、Yめ。今更訊くのも面倒だしいいや。って、何だか色んなことが中途半端になってるな。まあこれが僕だっていえばそうなんだけど。

「僕、着替えてくるよ」

 そろそろいった方がよさそうだ。僕は食器をシンクに入れてモトヤに告げると部屋に入った。
 色々苦戦しながら制服を着て鏡を見たけど、案の定似合わなかった。耳と尻尾が明らかに目立ってる。目立つ以前に何か凄い違和感だよ…。分かってたことだけどやっぱりショックだ。
 それにしても。――……この長い紐? いや、布かな…。これ何だろう。僕は不思議に思いながらそれをポケットに押し込んだ。

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