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「ねこ…お、は」
「モトヤ、おはよ」

 Yと言葉を交わした時間から暫時して、水色の寝間着にボサボサの頭をしたモトヤがリビングに現れた。まだ眠いのか目を頻りに擦っている。……何だか小さい子供みたいだ。寮長――ヤヨイやアリスとは違った意味で可愛い。もうすっかり慣れた単語だけの言葉に挨拶を返すと、モトヤは顔を輝かせた。…うーん、何か純粋な子供を騙しているようで嫌だな。いや、騙してるっちゃあ騙してるんだけどさ。

「ねこ、ご飯…作る、何」

 訳すと「猫、ご飯を作るけど、何がいい?」だ(と思う)。間違ってたら恥ずかしいけど多分こう言ってると思うから好意に甘えることにしよう。「魚があれば魚がいいな」

「…ん、待って」

 モトヤがはにかんでキッチンに姿を消したのを見送った僕はソファに座り直す。
 さて、どうしようかな。ただここでのんびり過ごすのも退屈だし、何か娯楽でもあればなー。何があるだろうと首を傾げると、脳裏にカズマの姿が過ぎった。そういえば不良くん――りゅーいちくんはカズマのことが好きだったんだよね。あの食堂でカズマを取り囲んでいた人たちはどうだろう? 爽やかくん…レンだっけ? レンは興味なさそうだったけど、他の人たちはりゅーいちくんと同じ目をしていた。牽制するような……あれ、っていうことは――。
 どれくらい考えていただろうか、モトヤの「で、きた」という声が聞こえた。意識すると今まで何の匂いもしてなかったはずなのにいい匂いが漂ってきた。

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