僕は出会う(灰汁が強い)

 「人の話は聞かないと駄目なんだぞ!」一方的に、しかも唾を飛ばしながら大声で話す彼は姿だけでなく色々不快だ。
 しかしそれをおくびにも出さずにニヤリと笑って口を開いた。

「キミこそ、おもしろーイ格好してるよね」
「なっ、失礼だぞ!」

 うわっ、ちょっと、唾かかったんだけど。顔が引き攣ったのが分かった。ていうか、僕の格好については好き勝手言うけど、自分のことは言わせないってどういうこと? それに面白いって別に蔑んだ言葉じゃないよね。失礼っておかしいんじゃない?
 黒い物体は何を思ったか、少し距離があったのを一気に詰めて僕の顔をじっと見た、気がする。目が見えないからなんとも言えない。

「お前、すっげー格好いいな! 名前なんていうんだ!?」
「チェシャ猫だよ」
「チェシャ猫って、…ふざけてないでちゃんと言えよ! あっ、俺は山根カズマ!」

 それにしても表情の豊かなコだ。現実逃避のようにそう考えた。だって、このコの言ってることがよく分からないんだ。まずチェシャ猫は僕の愛称(本当の愛称はチェシャだけど)であり、本名でもある。それをふざけてるって、それは存在自体ふざけてるって言いたいのかな。それにヤマネって凄い聞き覚えのある名前だ。ヤマネ――眠りネズミは割と気に入っているから、こんなのと一緒なんてちょっと気持ち的に嫌だな。ていうかヤマネだけなら分かるんだけど、かずまって何?

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