僕の同室者(芋頭でも頭は頭)

 暗闇に言葉を投げた後にがたりと物音がした方を見つめる。しんとした部屋の真ん中に佇む僕は相手の動きを窺った。暫くすると真っ青な髪を無造作に跳ねさせた美形が現れた。背筋を伸ばせば背は高いだろうに彼は猫背らしく、僕と目線が同じだ。彼はギロリと僕を睨む。最近睨まれることが多いなあ。いや、前から睨まれてたか。
 彼は微動だにしないで僕を睨み続ける。警戒した猫みたいだ。って、猫は僕か。

「だれ」
「僕はチェシャ猫っていうんだ、チェシャって呼んで」
「ねこ、俺、部屋、何」

 あれ、何か話通じないんだけど。えーと、まず、猫ってのは僕のことだよね(チェシャって呼んでって台詞は無視の方向なのか。いや、別にいいけどさ)。……俺の部屋で何やってる、っていう意味かな?

「今日からここは僕の部屋でもあるんだよね。明日から通学なんだ」
「……俺、分かる?」
「えーと…何で僕がキミの言葉を分かるかって訊いてるの?」
「ん」
「うーん、何となく、かな」

 首を傾げて笑うと「みんな、分からない」としょんぼりした後に言った。「でも、ねこ、分かる、初めて」単語だけで話す彼の言葉を聞くと、さっき貰った教科書の中間ら辺にあった古典というものを思い出す。同室者くん、キミは昔の人間なのかい? なんちゃって。でも僕も本来有り得ないトリップというものを経験してるわけだし可能性としては有り得るわけだけど、いやー、流石にないよね。しかもトリップは仮定の話であって。

「おれ…簪、基哉」
「モトヤ? 君の名前?」
「ん」

 「そっか、宜しく」言いながら何だか犬っぽいなと笑った。プッと吹き出した僕を不思議そうに見つめていたモトヤもふわりと笑う。ワンダーランドに生まれてたら犬耳と尻尾が生えてたよ、絶対。

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