キニイラナイ(憎い憎いは可愛いの裏)

(side:帽子屋)

 ――キニイラネェナァ。あーあ、キニイラネェ。それは隣にいる同属の糞ウサギも同じようで、苛々と歯軋りしている。こいつは確かに同属だが、同属嫌悪っていう言葉があるように何もかもがコイツと合わない。いや、逆に合いすぎてるんだナァ、これが。例えば同じ思考にあるだとか、同じ嗜好にあるだとか。今、同じ"もの"に興味があるだとかナァ。ここのヤツらは何を勘違いしたのか、俺とこの糞ウサギは仲がいいと思っているらしい。ウゼーッたらねえよ。勿論"あれ"も同じように勘違いしてるらしいがなァ。どこが仲がいいんだ。確かに同属であることは否定しないけどよ。
 目の前にいる糞オカマが"あれ"が消えたことをここにいる奴らに言っている。うっぜえ、んなの知ってンだよ。苛立ちを悟られないように俺はひゅう、と口笛を吹いた。そして堪らずといった風を装って嘲笑(わら)う。
 フン、イカれてるなんて知ってンよ。っつーかイカれてるから俺だっつうのにな。俺が嘲笑っていると、隣の糞ウサギも嗤いだした。――てめぇ、目が笑ってねぇんだよ。やるなら徹底的にやれ、糞め。
 それから糞オカマが睨んできやがったから嘲笑うのをやめる。どうやら"あれ"はニンゲンカイっつう所にいるラシイ。人間って言えば俺も確かに人間だが、そンな場所なんか聞いたことがない。それがまたキニイラナイぜ全くよぉ。

「じょーおーサマもイラついてんなぁ? まーァ、俺っさまもだけどよォ! 俺から逃げるなんて許されることじゃあねえよなぁ、チェシャよぉ」

 さいっこうにキニイラネェのは、"あれ"のカイヌシである俺から逃げたっつうことだ。――"あれ"は俺の、俺だけの所有物であり、俺だけの玩具だ。誰にも渡すわけにはいかねェンだよ。
 自嘲な笑みを浮かべ、もう一度キニイラネェナ、と呟いた。

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