▼ 27
――それから。ヤマネはまた気分が悪くなったようで、少し青い顔で黙っていた。僕はそれを視界の隅に入れながら、アリスに訊ねた。
「アリス。お腹空かない?」
「え、私?」
「うん。いつもはもっとワンダーランドでお茶会を開いてるでしょ?」
「開いてる――っていうか、強制参加みたいなものだったけど。ていうか、チェシャがいなくなってから全然開いてないよ」
「あ。そうなんだ」
帽子屋たちは教えてくれなかったなぁ。ま、帽子屋はお茶会にあんまり参加しないけど。ハートのトランプとか、教えてくれても良かったのに。
「こっちではお茶会を開いてないの?」
アリスが不思議そうに訊ねてくる。僕は頷いて、笑みを浮かべる。
「そういうこと、あんまりしないみたいだね。普通にお菓子を食べる程度だよ」
「良く我慢できるね、チェシャ」
「僕? まあね」
お茶会は開いてないけど、似たようなものだ。僕は美味しい紅茶を飲んで、美味しいお菓子を食べる。回数は確かに減ったけど、気になるのはそれくらいだ。
「私はそこまでお腹空いてないけど……」
ちらりとアリスがヤマネを一瞥する。
「ヤマネは何も食べてないから、何か欲しいんじゃないかな」
「へえ」
こっそり耳打ちしてくる。僕もヤマネに視線を向けると、目が合った。
「アリスが心配してるよ、ヤマネ」
「俺は大丈夫だ」
「とは言ってもねぇ。帽子屋もあれだけ弱ってたし、ヤマネきついでしょ」
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