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 ――それから。ヤマネはまた気分が悪くなったようで、少し青い顔で黙っていた。僕はそれを視界の隅に入れながら、アリスに訊ねた。

「アリス。お腹空かない?」
「え、私?」
「うん。いつもはもっとワンダーランドでお茶会を開いてるでしょ?」
「開いてる――っていうか、強制参加みたいなものだったけど。ていうか、チェシャがいなくなってから全然開いてないよ」
「あ。そうなんだ」

 帽子屋たちは教えてくれなかったなぁ。ま、帽子屋はお茶会にあんまり参加しないけど。ハートのトランプとか、教えてくれても良かったのに。

「こっちではお茶会を開いてないの?」

 アリスが不思議そうに訊ねてくる。僕は頷いて、笑みを浮かべる。

「そういうこと、あんまりしないみたいだね。普通にお菓子を食べる程度だよ」
「良く我慢できるね、チェシャ」
「僕? まあね」

 お茶会は開いてないけど、似たようなものだ。僕は美味しい紅茶を飲んで、美味しいお菓子を食べる。回数は確かに減ったけど、気になるのはそれくらいだ。

「私はそこまでお腹空いてないけど……」

 ちらりとアリスがヤマネを一瞥する。

「ヤマネは何も食べてないから、何か欲しいんじゃないかな」
「へえ」

 こっそり耳打ちしてくる。僕もヤマネに視線を向けると、目が合った。

「アリスが心配してるよ、ヤマネ」
「俺は大丈夫だ」
「とは言ってもねぇ。帽子屋もあれだけ弱ってたし、ヤマネきついでしょ」


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