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「どうして? チェシャ……」
「――冗談だよ」

 僕はにこりと笑って見せる。アリスはほっと息を吐いて可愛らしい笑みを浮かべたけど、ヤマネの顔はぶすりとしたまま動かない。

「……俺には、それが冗談には聞こえない」
「やだなぁ、どうしてそう思うの?」
「どんだけ一緒にいると思ってんだ」

 じろりと睨まれ、僕は肩を竦めた。これは、レンやYとは別の意味で厄介だ。

「……ヤマネ、顔怖いよ」
「チェシャ、俺は――お前に戻ってきてほしいんだよ。勿論そう思ってるのは俺だけじゃない。皆そうだ。お前はそれを裏切るっていうのか? ……裏切れないだろ」

 ヤマネは僕に近づいてくる。アリスが青い顔をして僕とヤマネを見てきた。
 僕はヤマネの言葉に引き攣った顔を無理矢理笑みに変える。

「裏切るわけないでしょ」
「お前……」

 ヤマネは溜息を吐く。アリスは僕の服を引っ張って不安そうに見上げてくる。

「チェシャ……大丈夫だよね? 信じて良い?」
「ヤマネは心配性だからね。僕はちゃんと帰るから、その時まで待っててよ」
「う、うん……」

 アリスはぎこちなく笑う。ヤマネは僕を諦めたように眺め、舌打ちをした。

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