17

「木に登ろうよ」
「……いや、俺には無理だ。登ったことねえし」
「じゃあ登ってみたらいいじゃん」

 ふ、と笑ってりゅーいちくんの手首を掴む。ぴくりと指が反応した。僕の手を振り払う素振りは見えないので、僕はそのまま木まで連れていく。木の下でぱっと手を放すと、枝を掴んでひらりと乗る。くるりと振り返ってりゅーいちくんに手を差し出した。いつもはこんなことしないけど、今日は特別だ。

「……さんきゅ」

 ふい、と顔を反らしたりゅーいちくんはそっと僕の手に手を重ねた。ぐいっと思い切り引っ張ると、枝に手を付いたりゅーいちくんがたどたどしい動きで僕の隣にやってきた。
 本当に木に登ったことがないみたいだ。僕はこっそりと笑った。

「はぁ…」

 ちゃんと登れて安心したのか、りゅーいちくんが息を吐くのが聞こえた。その隣で僕はそよそよと吹く風に目を細める。

「気持ちいいでしょ」
「……良くわかんねぇ」
「この良さが分からないなんて勿体無いなぁ」

 くすりと笑うと、りゅーいちくんも眉を下げて笑う。

「……で、話ってのは」
「もうその話? まあいいけど」

 相変わらずせっかちだ。もっとゆっくりしたかったんだけどなぁ。僕はぎゅっと木に置いた手を握り締める。

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