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 一々爽やかくんに突っ込むりゅーいちくんは息を切らしながら僕を睨んだ。

「チェスだかシャチだか知らねえが、カズマに近付くんじゃねえ!」

 うーんと、りゅーいちくんもしかして態と言ってるのかな? 僕はゲームでもなければ海豚科の海獣でもなく猫なんだけど。

「友達にそんなこと言っちゃ駄目だろ! ……あっ、皆、こいつチェシャっていうんだ! で、この偉そうなのは生徒会長の尋! それからこのだらしない奴が生徒会会計の煕で、爽やかな奴が連、最後の美丈夫な奴が生徒会副会長の琉生だ!」

 本に書いてあったけど生徒会って確か生徒の中で特に偉い模範になる人たちだったよね? 何かイメージと違うんだけど。っていうか、何でカズマが仕切るのかな? 名前とか凄くどうでもいいんだけど。役職だけ覚えてれば問題ないかな? ……っていうかさり気なく酷いよね。皆気にしてなさそうだけど。

「外国人? 日本語上手いな」
「籍はイギリスなんだけど、直ぐにこっちに来たからね。殆ど日本人みたいなものだよ」

 レンと呼ばれた爽やかくんがふーん、と声を漏らす。
 因みにこれはYが考えた言葉で、訊かれたときはこう言っておけと先程部屋で勉強しているときに言われたものだ。

「へー、そうなのか。お前って不思議の国のアリスに出てきそうだよな。ほら、チェシャ猫。名前も一緒だし」
「親がチェシャ猫好きだからね」
「あ、チェシャって呼んでもいいか?」
「いいよ、好きなように呼んでくれて」
「そういやチェシャのこと初めて見たな。目立つし、一度みたら忘れないと思うんだけど」
「今日初めてここに来たからね」

 考えてあった言葉を言って笑みを浮かべると、先程からずっと黙っていたYが僕の腕を掴んだ。そっちを向けばYの前にあった料理は既に空で、早く食べろといわんばかりに見つめられた。僕は腕を少し振って手を放して貰うと食べかけのフィッシュ・アンド・チップスを口に含む。
 「あっ、先に食べるなんて駄目だぞ!」カズマが僕の行動に何の不満があるのか突っかかってきた。どうやら一緒に食べたいらしいんだけど、カズマがいたら食事が美味しく感じなさそうだ。っていうかまず食べ物の中に髪の毛入らないのかな? と疑問を感じる。まあ、ってことで遠慮したい。髪の毛の問題だけじゃなくても遠慮するけどさ。
 僕は焦らしてくるYの視線に居心地の悪さを覚えて、カズマの言葉を無視して食べ続ける。カズマの煩い声と僕を強く睨んでくる複数の視線が僕を攻撃してきたけど、元々あまり残っていなかったせいか何とか早めに食べ終わった。それを確認してボタンを押したYは立ち上がる。僕も立ち上がった。

「おい、何立ってるんだよ!」

「俺たちは帰るんダヨ。食べ終わったのが見えネェか?」
「デザートとか食べればいいだろ!」

 呆れたように肩を竦めてカズマを見下ろす顔は少し軽蔑を含んでいた。意地悪く笑うYもこんは表情ができるんだな。
 ところで何でカズマはそんなに引き留めたがるんだろう? 後ろの人たちと食べればいいのに。よく分からない行動に内心首を傾げていると、横でYが呟いた。「行くゾ」

「あー! 待てよ!」

 憤慨した様子のカズマに笑みを残し、離れたところでこっちを窺うウェイターを気の毒に思いながら食堂を後にした。

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