13

 息が詰まる。

「――僕が帰りたくないと思ってるって言ってるわけ?」
「そうダナ」
「そんなわけないでしょ」
「そうか? お前が一番分かってるダロ」

 Yはにやりと笑う。そこで紅茶の入っているであろうティーカップを持ったレンが近づいてきた。

「はい、どーぞ」
「うん」

 僕はテーブルに置かれたティーカップをぼんやりと見つめる。少し揺れるそれは、僕の心を表しているようで、なんとも言えない気持ちになった。

「別に急いで戻る必要ないんじゃねーの?」

 レンはふうふうと息を吹き掛け、紅茶を冷ましている。湯気が僕の方にゆらりと流れてきた。
 
「戻りたいなら戻りたい。戻りたくないなら戻りたくない。それでいいと思うけどな」
「簡単に言うけど――」

 僕が戻りたくない、なんて言ってしまったら、ヤマネたちの姿が頭に浮かぶ。僕を追ってここまで来た彼らへの裏切りであるように感じる。僕の帰りを待ってるであろう女王だってそうだ。

「焦るなってことだよ。な?」

 Yは無言で頷く。


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