12

「レン、僕紅茶ね」
「はいはいっと」

 レンは肩を竦め、背を向けた。僕はその背中を見送って、視線をYに戻す。

「今――僕のいた世界の住人がこっちに来てるんだけど」
「ヤマネとアリスだナ」
「ああ、レンに聞いたわけ?」
「いいや」

 Yは首を横に振った。「分かるんだヨ、そういうのって」

「ふうん、そういうものなんだ」
「オウ」
「まあ知ってるんだったらいいや。それで、ヤマネが体調悪くて今寝込んでるんだけど」
「そりゃそうだろうナ」
「そりゃそうだろうなって?」

 僕を一瞥すると、Yは人差し指でサングラスをぐいっと上げた。

「空気がサ、合わねえわけよ。当然だヨナ。世界が違うんだから」

 帽子屋、ハートのトランプ、ヤマネが体調が悪くなることは当然のこと。アリスは元々ここの世界の住人だから――。

「ん? でも待ってよ。僕はここの住人じゃないでしょ。アリスだって――ワンダーランドに来た時だって平気だった」

 Yは僕の顔をじっと見つめる。

「アリスがここに来れたってことは…僕だって戻れるはずだよね」

 「ね、教えてよ」口を三日月にして笑うけれど、Yの表情は動かない。

「さァてな。それはまだ、俺の口からは言えナイ」
「……まだ、ねえ」
「ま、一つ言えることは」

 Yはすらりとした脚を組んで、口角を上げた。

「お前が戻りたいと思うなら、戻れるはずダ」
 

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