9

 僕は木の下に向かって喋りかける。

「ねえ、なんでも知ってるって言ったけど」
「ん? うん」
「じゃあ、僕に教えてよ。色々さ」

 にんまりと笑って見せる。レンは僕を見上げて、数秒見つめ合った。さて、どう出るだろう。レンが神だと言うなら、本当に何でも知ってるはずだけどね。――そんなこと、ないと思うけど。

「色々、ねえ。別にいいけど、チェシャが知りたいならさ」
「……へえ」

 じゃ、教えてよと声を発する前に、レンはにやりと笑った。僕は少しだけ眉を顰める。反応が薄い。何を考えてるんだろう、レンは。

「教える代わりに、チェシャも俺が望むことをしてくれる?」
「え?」
「等価交換ってやつ。チェシャ、そういうの好きだろ」
「……好きだけど」

 なんか、レン相手は嫌だ。僕の不満そうな顔を見たレンは、意地悪そうに笑う。この世界の人間で、一番意味が分からなくて、気味の悪い相手だ。こういうの、同族嫌悪って言うのかもしれないけど。

「…いいや、僕、レンの情報に期待してないし」

 僕は視線を外して、空を眺める。もう興味は失ったということを無言で伝える。でも、レンは動く様子はない。僕が少し苛立った時。レンは口を開いた。


「――ヤマネたちのことでも?」
「ヤマネたち?」

 僕は思わず再びレンに視線を遣ってしまった。レンは相変わらず嫌みな顔で笑んでいた。

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