8

 モトヤの頭から手を放し、その手そのままティーカップに移す。ぐっと傾けて紅茶を一飲みした僕は、ゆっくりと立ち上がった。アリスとモトヤが捨てられた子犬のように僕を見上げてくる。

「それじゃ」

 僕はそれだけ言うと、足を玄関に向ける。アリスとモトヤは言葉を発しなかった。









 お気に入りの木の下に来ると、先客がいた。

「よっ」
「…あれ、なんでいるの?」
「チェシャがここに来ると思ったから」

 にっこりと笑みを浮かべるレンが僕にひらりと手を振った。それに尻尾を揺らすことで返すと、肩を竦める。

「レンも暇だよね。僕に何か用事でもあった?」
「あるのはチェシャの方じゃないか?」
「……なんでそう思うのかな」
「俺はなんでも知ってるから」
「なんでも、ねえ」

 僕はレンの隣を通り過ぎ、木に登る。木の上から見える景色にふうと息を吐けば、下から笑い声が聞こえた。

「何笑ってるのかな」
「弱ってるなと思って」
「僕が? 面白いこと言うね」

 僕はくすりと笑って見せる。僕が弱ってる? 冗談じゃない。弱るなんて、そんなことあるはずないじゃないか。


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