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 アリスは眉を下げた。

「あの…会長さんには私たちのこと、話してたよね。どうして彼には何も話さないの?」
「アリスは話してほしいの?」
「そんな、私は別に…」
「ほしいんだ」
「……ほんとに、そういうわけじゃなくて」

 困ったように口から言葉を吐き出して、躊躇したように視線を動かした。そうしてアリスは、最後に目を伏せて少しだけ笑った。

「チェシャらしくないなって、思って」
「そうかな?」
「そうだよ」

 僕はアリスに近寄った。さらりとした金の糸を持ち上げれば、アリスはくすぐったそうに身を捩った。

「私、ちょっと寂しかったんだ」

 「チェシャがチェシャらしくなくて」アリスは付け加えた。

「アリス、今日はやけに素直だね」
「チェシャが素直じゃないから」

 僕はにやりと笑って見せた。

「ねえ、アリス、紅茶を淹れようか」

 僕はくるりと体を翻した。視線が――二つ、背中に突き刺さる。一つは責めるような、もう一つは縋るような。

「モトヤも要るよね」

 ゆらりと尻尾が揺れる。


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