長い一日(口は災いの門)

(side:チェシャ)


「…ねえ」

 ヤマネたちの背中をぼんやりと見送っていると、アリスが控えめに声をかけてきた。僕はちらりとモトヤを見る。モトヤは少し寂しそうな顔をして、部屋へ向かった。うん、偉い。と心の中でモトヤを褒める。
 静まる部屋。僕は笑みを浮かべ、ちょっとだけ首を傾げる。

「どうして…」

 アリスの唇は僅かに震えている。僕はそっと抱きしめて、どうしたのと甘く囁く。ぴくりとアリスの体が震える。

「っううん、なんでもない」
「アリス」

 そんなので、僕が諦めると思ってるの。笑顔で名前を呼び先を促せば、アリスはぼそぼそと話し始める。

「ここに来たら体調が悪くなるって言ってた。空気が合わないって」
「うん、ヤマネも辛そうだったね」
「やっぱり気づいてたんだ…。あのね、チェシャ。私は全然きつくないの」
「アリスは特別だからね」

 もともとこっちの世界の人間だ。空気が合わないなんてことはないだろう。
 アリスは険しい顔で首を振った。

「チェシャは?」
「うん?」
「チェシャは、何で平気なの」
「ううん」

 何でって言われてもね。最初から僕は体調が悪くなることなんてなかったし。もし何か理由があるとすれば――Yが関わっている気がする。

「アリス、僕は何も変わってない。安心してよ」
「……うん」

 アリスは納得がいかないようだった。僕はアリスをそっと放し、モトヤを呼びに行った。

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