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「高萩っち?」
寮長である雛森の所へ案内しろと命令され、連れていくと挨拶も済まさない内に高萩はどこだと迫った。急かしすぎだろ。雛森も驚いて目を見開いている。
「ええと…きみは誰?」
ヤマネは答えない。困ったように雛森がこっちを窺ってくる。俺は溜息を吐いて、ヤマネだと告げる。
「あいつ――チェシャ猫の知り合いだ」
「へえ、ちーちゃんの? …すごく辛そうだけど大丈夫? 休んでいく?」
「いい」
「それで、高萩は」尚も急かすヤマネ。心配そうにヤマネを見ていた雛森が首を傾げる。
「何で高萩っち?」
「知らねえよ」
俺もヤマネを見るが、やはり口を開かない。粘っても言わないだろうな。雛森もそれを感じ取ったのか、口を開く。
「高萩っちはねえ、えーと、確か、実家に帰ってるよ」
「実家? …んな馬鹿な」
「どういう意味だ?」
別に実家に帰るのはおかしくないだろ。突然親に呼び出されることは珍しくない。ヤマネは答えず、熱っぽい息を吐いた。おいおい、ほんとに大丈夫なのかこいつ。
「もう戻ろうぜ。あいつも待ってるだろ。つーかさっさと休め」
「そうだよ。歩けないほどきついなら遠慮なく、ここで休んでいっていいんだからね」
呆れながら言うと、雛森も俺に同意しながらヤマネを心配する。高萩がいないと分かったからか、今度は素直に、しかし苛立ったように頷いた。そして踵を返し、ふらふらと歩いて行く。俺と雛森は顔を見合わせた。
「百緒っち、ヤマチーをよろしくね」
「おう」
……ヤマチーって、ヤマネのことか?
俺は何だか微妙な気持ちになりながら手を挙げて、奴の背中を追った。
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