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 仕方ねえ。ついて行くとしよう。隣に並ぶと、ヤマネは鬱陶しそうにこっちを見た。

「ついてくんな」
「俺もこっちに用事があるんだよ」
「嘘吐け」

 ヤマネは溜息を吐くと、少し考えるような素振りを見せて、ちらっとこっちを見た。

「…お前、ここの奴に詳しいか」
「は? まあ、有名な奴はそこそこ」
「俺はこいつを捜してる」

 ポケットから何かを取り出し、俺に差し出してきた。それは写真だった。写っている人物には見覚えがあって、あ、と声を漏らした。

「こいつ――高萩だ」
「たかはぎ…」

 胡散臭い奴だった。猫野郎と初めて会った時に、あいつと初めて話した。――そういえば、あの男は猫野郎のことを知っているような感じだったな。

「部屋とか、分かるか」
「寮長に訊けば分かるんじゃねえか。…それで、何でこいつを?」

 ヤマネは黙る。はあ、と息を吐いた。その熱っぽい息に、本当に大丈夫か、こいつ。と少し不安になる。

「……こいつが、チェシャに…」

 憎々しげに呟くヤマネ。俺はあいつの名前が出てきて思わず足を止める。

「…あいつが、何だよ」

 「……ふん」ヤマネは鼻で笑う。俺を睨みつけながら、馬鹿にするように笑った。

「チェシャのこと、何も知らねえのに話してもな」

 かちんとくると同時に、胸が痛んだ。――何も知らない。いやそんなことはない、と信じたい。少しはあいつのことを知っていると思っていたい。
 暗示をかけるように心の中で呟いていた俺だったが、次に発せられた言葉に、衝撃を受けた。

「ここの生徒会長とかいう奴には、チェシャのこと知ってるから話してもいいけどな」
「――は」

 なんで、俺より一緒にいる時間が少ない奴が、俺よりあいつのことを知ってるんだよ。…なんでだ!
 ぎり、と歯を噛み締める。手を握りしめて俯く。震えるのは、悔しいからか、悲しいからか。

「…本気で、好きなのか。チェシャのこと」

 俺は顔を上げた。きつそうな顔をしながら、しかし真剣な顔で俺をじっと見た。ああ、と答えると、ヤマネは何故か同情するような目で見てきた。そして口を開いて何かを言おうとして――そのまま閉じる。
 少しの間があって、ヤマネは目を逸らした。

「…そうか」

 

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