僕と食堂の波風(二の句が継げぬ)

 下らない談笑を交えながらの食事の途中。食堂が一層叫声に震え、それは嬌声と痛罵に別れた。周りの視線は僕の後ろに集中している。何だ何だとピリピリする猫耳を軽く押さえながら振り向くと、振り向いたことを少しばかり後悔した。振り向いた先には巣みたいな頭の――カズマがいた。後ろには不良くんはいなかったけど長身の男が三人。小さく溜息を吐いて前を向けば、ニヤニヤと薄笑いしている男一人。この状況を楽しんでいるようだ。結構な性悪だよね、Yって。

「あのオタクまた生徒会の方と…!」
「いやぁあああ! そんなオタクに触らないでください…!」

 周りはどうやらカズマのことをよくは思ってないらしい。……まあ見るからに不潔だし騒がしいもんねぇ。そういえば僕、おたくって知ってるよ。キター! って叫ぶ人のことだよね。Yから教えてもらったんだ(真偽は分からないけど)。

「あっ、チェシャじゃん!」
「おい、カズマ!?」
「待ってよカズマー」

 ピクリと体が揺れる。――しまった。僕は目立つらしいんだった。早々に暴かれた僕の居場所に走って近づくのは言うまでもないけどカズマ(プラス二)だ。っていうか食堂って走っちゃ駄目でしょ。普通に考えて。

「ねえY」
「頑張レ」
「ちょっと…」
「なあなあ、一緒に食べねェか!?」
「はあ?」

 つい素っ頓狂な声を上げてしまうが、それは向こうも同じだったみたいだ。威厳などオーラを纏っている金髪碧眼の男と緩い茶髪を風に揺らせている垂れ目の男が驚いたようにカズマを見て、それから初めて僕を視界に入れた。もう一人の男は中性的な面持ちで僕の内を探るように視線を投げかける。正直この何を隠しているのか分からないような男が一番苦手だ。同属嫌悪っていうか、まあ、そんな感じ。

「なっ…誰だ、テメェは」
「っつーか、その格好何ー? キチガイじゃん?」

 ジロジロと不躾に格好を見た茶髪の男は僕を蔑んで鼻で笑う。……この格好は僕の形であって、唯一の――。

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