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 俺の視界に入ったのは、見知らぬ二人を抱きしめるあいつの姿。ばくばくと心臓が鳴る。俺はぎゅっと拳を握った。食堂は静まり返って、あいつらを見つめている。俺はそれ以上見ていられなくなって、視線を逸らす。そのまま顔をもとに戻せば、斜め前に座っている簪が何を考えているのか分からない表情で、ただじっと、見ている。あいつに見せていたあの腑抜けた顔ではない。
 簪が俺の視線に気づき、じろりと睨んでくる。俺は負けじと睨み返した。

「…何見てんだよ、テメェ」
「別に…」

 簪はぼそりと呟いて、ふい、と目を逸らした。その先は、あいつの座っていた席。まだ料理を頼んでもいなかった。何にしようかな、とあいつは悩んでいた。
 …戻って、くるよな。俺たちと昼食を摂るんだよな。俺はそう願った。おそらく、簪も。……しかし、奴は戻ってこなかった。










 微妙な空気のまま昼食を摂り、なんとなく簪と一緒に歩く。俺はあいつに言ってやりたかった。ふざけんな、勝手に帰るんじゃねえ。そうしたら、あいつはいつもの腹立つ笑みを浮かべ、ごめんねと誠意のない謝罪をするんだろう。
 簪がうざったそうに俺を見て来る。付いてくるなと言いたいんだろうか。

「んだよ。別にテメェにゃ用はねえからな」

 簪は無言で前を向いた。こいつ、無視しやがった。顔がひくりと引き攣った。
 あいつの部屋の前に着くと、簪が鍵を開けた。あいつはもう戻ってきているだろうか。俺はドアを閉めようとするのを阻止して無理矢理部屋に入り込んだ。玄関を見ると、靴はない。まだ戻ってきていないらしい。俺は肩を落とした。こいつと二人というのが更に俺を嫌な気持ちにさせる。
 無言でソファに腰を下ろす簪に倣って俺も座った。部屋に沈黙が落ちる。不思議だ、と思う。前は簪とこうして二人でいるなんて到底無理だった。俺も、そして、簪も。今だって決して仲が良いとは言えないというか、普通に悪いが。

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