PAIN

(side:隆一)

 今日は朝からいいことがあった。まず、カズマがしつこく絡んでこなかった。毎朝、奴の騒音で始まり、奴の騒音が静まったところで終わる。だから睡眠時間はがりがり削られていたが、今日は違った。久しぶりにすっきりと眠れて、かなり気分が良かった。
 そして、二つ目は、あいつが俺を見つけて近寄ってきたこと。あいつの姿を見つけて声をかけようか迷っていたらこっちに来ていつものようにニヤニヤと笑う。そんな笑みにまで喜んでしまう自分が嫌だ。隣には簪の野郎がいたが、あいつの視線は俺にずっと向いていた上に、顔を近づけてきた。完全にからかわれているだけだろうが、それでもいい。そう思ってしまう自分が以下略。
 つーか、こいつ、結局俺のことどう思ってんだろう。こうやって絡みに来るくらいだから、嫌われてはないと思うが、好かれているとも思えない。訊けば直ぐに分かる。だがそうしないのは、はっきりと答えを出されるのが怖いからだ。どう考えても濁すタイプではない。そんなことを考えながら過ごしていたから悪かったのだろうか。食堂で、俺は目の当たりにしてしまった。

「チェシャ!」

 女のように高い声が猫野郎を呼ぶ。聞き覚えの無い声だ。俺は後ろを見る前に――奴の顔を見て、固まった。目を見開いた後、見たことがないくらい嬉しそうに笑ったから。

「ヤマネ、それにアリス」

 俺たちなんて忘れてしまったかのように、一瞥もくれずに席を立つ。そしてそのまま……。俺は壊れたロボットみたいな動きで振り返る。

『僕がこの前まで住んでいた所にね、キミと似たような子がいるんだ』

――そ、そいつのこと好きなのかよ?

『好きだよ』

 まさか。

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