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「ところで…」

 会長さんはちらりとこっちを見た。僕ではなく、アリスに視線を向けている。アリスが不安そうな顔をして振り向いたので、僕は腕の力を強めた。そして大丈夫だよと笑ってみせる。会長さんが甘いものでも食べたような顔をした。

「な、なんですか?」

 アリスは前を向いて、首を傾げた。きっと可愛いんだろうなあ。前から見られないのが残念だ。

「お前、男か?」
「へっ?」

 ええ? 何を言っているの、会長さんってば。こんなに可愛いアリスが男なわけないじゃない。確かに今はあの可愛い服を着ていないけど、でも、可愛さは消えてない。そう思っていると、隣でヤマネが呆れたように言った。「お前顔怖いぞ」おっと、いけないいけない。僕はにっこり笑った。

「いえ…あの、ここは男子校だから、あの格好じゃまずいですし…」
「なるほどな」

 会長さんは納得したように呟いて、息を吐いた。

「とりあえず、気をつけてくれ。それだけだ」
「……本当に、それだけかよ?」
「あ?」

 話は終わりだという会長さんに向けて、ヤマネが訊ねた。会長さんは訝しげな表情になる。…? なんだろう。僕はアリスと顔を見合わせる。アリスってばきょとんとしてる。可愛いなあ。

「まだ気になること、あるんじゃねえの」
「…なんでそう思う?」
「さあ。なんでだろうな」

 ヤマネはふんと鼻で笑う。会長さんは数秒黙った後、顔を顰めた。あれ、本当になにか気になることあるんだ。じっと会長さんを見たけど、会長さんは吐き捨てるようにねえよと答えて、僕たちに背を向けた。言わないつもりらしい。今度会ったら問い詰めようかな。くすりと笑って会長さんの去っていく背中を見つめた。

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