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 最近よく会長さんと話すなあ。僕の正体を知っているから話しやすいし、何より会長さんのことはそれなりに好きだからいいけど。
 ヤマネたちを連れて例の木のところにいくと、会長さんが木に背を預けて腕を組んでいた。目を閉じ、何かを考えている。僕はくすりと笑った。

「今日は木に登らないの?」

 会長さんは目を開けて、吐き捨てるように言った。「登らねえよ」

「それは残念」

 肩を竦め、ヤマネたちに目を向ける。アリスが不安そうにこっちを見ていたから、手を握ってあげた。

「チェシャ、なんだよこいつ」
「会長さんだよ。会長さんっていうのは――」
「ああ、それは知ってるからいい」

 ヤマネはそう言って、舌打ちした。なんで知っているんだろうと思ったら、アリスが本で見たんだと小声で教えてくれた。なあるほどね。

「お前ら、こいつの仲間か」
「だったらなんだよ」

 刺々しいヤマネの言葉に会長さんは眉を顰めた。なんとなく予想してたけど、この会長さんとヤマネは仲良くなれそうにないよねえ。アリスは可愛いし優しいから大丈夫かな。

「前に来た帽子屋が問題を起こしてくれたからな。起こす前に、言っておく。目立つ真似をするな」
「帽子屋さん…」

 アリスは溜息を吐く。その顔は、やはりといったものだった。

「それなら大丈夫だ。俺はあいつみたいな真似はしねえ。…ただ、時間がねえからな。目立たないとは約束できない」

 ところで。ヤマネは横目で僕を見る。

「なんでこいつ、俺たちのこと知ってんだ? ここの奴らは皆知ってんのか」
「いや――」
「会長さんには僕とハートのトランプが話したんだよ」
「じゃあどこから来たとかっていうのは、言わねえほうがいいのか」
「そうしてくれ。頭のおかしい奴だと思われたくなかったらな」

 会長さんの視線は耳に向けられている。耳で既にそう思われているけどな、っていう顔をしている。でも耳は仕方ないもんねえ。僕はアリスを抱きしめて、笑う。

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