ヤマネとアリス(知己)

(side:チェシャ猫)

 りゅーいちくんたちと食事をしようと食堂へ行くと、食堂にいるはずのない彼らがいた。ヤマネとアリスだ。どうしてここに? 不思議に思ったけど、すぐに分かった。イカレ帽子屋やハートのトランプの次に選ばれたのがヤマネたちだったんだろう。
 立ち上がって、ヤマネたちのところへ向かう。僕は彼らの名前を呼んで、抱きしめる。ずっと会ってないってわけじゃない。でも、すごく懐かしい。

「ヤマネたちも、ιに?」

 一応訊ねてみると、りゅーいちくんは頷いた。そして顔を赤くする。

「そうだ。つかテメェ離れろ!」
「ええ? いいじゃない」

 ああ、この感じ。ヤマネだ。りゅーいちくんはりゅーいちくんで好きだけど、ヤマネはそれ以上なんだと実感させられた。アリスのこの柔らかい感触も、酷く懐かしく感じる。
 笑っていると、静かだった食堂にかつんかツンという音が響いた。その音が段々と近づいてきていて、僕は振り返った。不機嫌な顔の会長さんがいた。ああ、きっと問題を起こすな――というより、この場合は、目立つ行動をするなって言いたいんだろうな。僕はにやりと笑ってみせる。ぐっと眉が更に寄った。


「…なんだテメェ」

 ヤマネが警戒心たっぷりの声で会長さんに話しかける。会長さんは僕から視線を外し、横を通り過ぎていく。その時、耳元で囁かれた。

「木のところに来い」

 木って…あの木のことだよね。うーん、面倒だなあ。もっとヤマネたちと話したいのに。僕はりゅーいちくんたちに視線を向け、ひらひらと手を振った。そしてヤマネたちを放し、今度は手を繋いだ。

「じゃ、行こう」
「は?」
「え、ど、どこに?」

 戸惑った声を無視して、食堂を後にした。
 りゅーいちくんたちには後で謝っとかないとなあ。

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