2

 チェシャ猫にヤマネ、――そして、アリス。そうだ、確か突然現れ、いつのまにかいなくなっていたあの凶暴な男も帽子屋と言った。不思議な国のアリス……それしか考えられない。しかしアリスの真似をする理由がさっぱりだ。
 それにしても。ヤマネとアリスに向ける顔が気になって仕方ない。帽子屋に対してはどちらかというと、嫌悪感のある顔を向けていたような。

「ヤマネたちも、ιに?」
「そうだ。つかテメェ離れろ!」
「ええ? いいじゃない」

 にこにこと笑っているチェシャ猫と顔を赤くしているヤマネ。僕はちらりと会長たちを見る。会長は何かを考え込んでいて、会計は呆然としていた。

「……気になるなら、行ったらどうですか」

 こんな空気の中、行けるのだったら。僕は誰に対してではなく、呟いて反応を窺った。

「い、行けるわけねーじゃん」

 会計が顔を引き攣らせた。健吾は黙々と料理を食べているが、視線は彼らに向けられている。会長は――呆れたように溜息を吐いた。もしかして行くのかと眺めていると、立ち上がった。え、本当に?

「会長行くの!?」
「んなわけねーだろ。出るだけだ」

 そう言うと、すたすたと階段を下りて入口にいる彼らへと近づいていった。会長が近づいていることで、皆固唾を飲んで見守っている。
 あの男――チェシャ猫はぴくりと耳を動かして、ヤマネたちを抱き締めたまま振り向いた。そしてにんまりと笑う。ああ、またあの憎たらしい笑みだ。

「…なんだテメェ」

 ヤマネは訝しげな顔をした。会長はその声に答えることなく、横を通り過ぎた。食堂のドアが閉まると、チェシャ猫が楽しそうに笑った。



[ prev / next ]

しおりを挟む
[back]