食堂での出来事(寝耳にミミズ)

(side琉生)

 僕は食堂に来ていた。本当はカズマと一緒に食べかったけど、風紀に連れて行かれてしまった。ついていこうとしたら健吾に止められた。だから仕方なく、健吾と二人でここへ来たのだ。この生徒会専用席には他の役員もいるから今は二人ではないけど。
 生徒会専用席は二階で、ここから食堂の入口がよく見える。僕カズマが早く来ないかそわそわしていた。そんな僕を見て、会長が呟く。

「落ち着けよ」
「落ち着いてます」
「副会長、ご飯食べないのー?」
「食べます」

 僕はふんと鼻を鳴らして箸を取る。二人の呆れたような姿が視界に入り、イラっとした。さっきからドアが開くたびに見ているから、確かに落ち着いていないように見えるかもしれない。

「それにしても、あいつって目立つよねえ」

 会計が一階を見ながら笑った。僕たちは視線を一階に向けた。人一倍目立っている男――チェシャ猫と名乗っている――が憎たらしい笑みを浮かべていた。これだけ人がいるのに、すぐに見つかる理由の一つは、あの耳と尻尾があるからだろう。あれだけあの男のことを嫌っていた会計は、生徒会に戻ってきて以来、あの男をよく見つめている。会長だって、あの男と親しい。そして健吾も、あの男と関わりがある。あの男のどこがいいのかさっぱり分からない。怪しすぎるし、第一、態度にも言葉にも腹が立って仕方ない。
 そして隣には、カズマと親しかった百緒と簪がいる。仲が悪い二人が一緒にいることも、彼らが皆顔立ちが整っているということも、注目の理由になっている。
 僕は視線を外したが、会長と会計はじっと見つめている。あの一匹狼だった男も、会長も、会計も、カズマが好きだったんじゃないのか。僕はカズマのことを話題にしない彼らにイライラとした。恋敵が減るのは嬉しいが、カズマよりあの男が好かれているということが嫌だ。
 ガチャリと食堂のドアが開く音がした。そろそろカズマも解放された頃かもしれない。今までより期待を込めて視線を向けて――固まった。不審に思ったらしい会長や会計も、入口に視線を向けた。
 入ってきたのはカズマではなかった。妙な二人組だ。一人は綺麗なブロンドヘアーの可愛らしい顔立ちをした子で、もう一人は…。

「耳…」

 会計がぽつりと呟いた。そう、もう一人の強面の男の頭には、小さな耳がぴょこりと生えていた。会長がハッとした顔であの男を見る。

「チェシャ!」

 高い声が食堂内に響く。食堂が静まり返った。呼ばれた男は、ぴくりと耳を動かして入口を見た。そして、あの憎たらしい笑みではなく、驚いた顔をして、次いで本当に嬉しそうに笑った。あんな顔を見たのは初めてだった。会長と会計を見ると、二人とも驚いているから、二人も見たことがなかったんだろう。
 僕は再びあの男に目を向ける。がたりと立ち上がって、一直線に二人組に近づいて行く。

「ヤマネ、それにアリス」

 男はぎゅっと二人を抱きしめた。
 食堂にいる、当事者たち以外の誰もがその光景を黙って見つめていた。

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