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 人型動物を見慣れていたせいか、人間だらけの周囲に、少し緊張していた。しかも、じろじろと見られている。私の長い髪が珍しいのかもしれないし、見慣れない人物だからかもしれない。でも、確実に言えるのが、──皆、ヤマネさんの頭…もっと言えば、頭に生えている耳を凝視している。当たり前と言えば当たり前なんだけど、こうジロジロ見られるのはあまり気分のいいものではない。

「うぜぇ」

 視線を鬱陶しそうにしているヤマネさんに苦笑する。ヤマネさんはただうざったいだけらしい。
 そういえば、チェシャも耳と尻尾が生えているから、注目されたんじゃないかな。…本人は気にしなさそう。

「って、あれ?」

 前を歩いていたヤマネさんの姿が見えない。私は慌てて周囲を見回せば、身長の低い男子に声をかけていた。女の子みたいに可愛いけど、…男だよね? よく見れば、そういう子がたくさんいる。通りで、女の私がここにいてもそこまで不審がられないわけだ。
 …えーと、それで、なんでヤマネさんは話しかけたんだろう? 首を傾げていると、ヤマネさんが戻ってきた。

「ヤマネさん」
「あいつの居場所が分かった」
「ええっ!」

 本当に? チェシャの居場所を訊いたらしいヤマネさんは、機嫌が良さそうだった。ヤマネさんもチェシャに会いたいんだ。私も人のことがいえないくらい顔が緩んでいるかもしれない。

「どこなの?」
「食堂らしい。ここから近いそうだ」
「食堂…」

 食事中…。今、何時なんだろう? お昼か、朝か…夜ではないことは明確だ。少し歩いたところに、掛け時計があった。午後十二時を指している。つまり、今昼食を摂っているってことね。掛け時計の下にある扉を見て、ヤマネさんが呟いた。「あれだ」

「これが食堂…」

 ここにチェシャがいる。どきどきと心臓が煩く鳴り始めて、私は胸を押さえた。そんな私に一瞥もくれず、ヤマネさんは食堂のドアを開いた。ああああ、まだ心の準備が! 待ってと言う時にはもう既に食堂の中に入ってしまっていて、私は覚悟を決めて後を追った。


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