人間界(一寸の光陰軽んずべからず)

(side:アリス)

 ぱちっと目を開けると、見覚えのない部屋にいた。成功したんだ…。私は慌てて周りを見回す。ヤマネさんがいない。心細くてぎゅっと服を握る。――そして、違和感を覚えた。服の手触りが、いつもと違う。私は下を向いて、ぎょっとする。スカートじゃない。こんな服、着た覚えなんてないし…なんで? 戸惑っていると、ぽいと私の太ももになにかが飛んできた。顔を上げると、いつからいたんだろう、ヤマネさんが私を見ていた。

「え、え、いつから…っ」
「今。……それ、読めよ」
「う、うん」

 私は手帳のようなそれを一枚捲る。ここでの生活の仕方や常識が書かれていた。分かっていることばかりだから、流し読みしながらページを捲っていく。私の手が止まったのは、この学校について書かれているところを読んでいた時だった。

「……え、だ、男子校…?」

 ぴしりと固まる。男子校って、…男子しかいない…よね? 久しぶりに女の子と話せるかと思ってちょっと期待してたのに男子校って! 残念に思いながら、この格好の意味を理解した。ここでは男のふりをしていないといけないってことね。それにしてもいつ着替えたんだろう…。

「ここはιさんの言ってた宿…なのかな?」

 じっと窓の外を見ているヤマネさんがだろうなと頷く。場所がいまいち分からないけど、とにかくチェシャがいることに変わりはない。…早く、会いたいなあ。

「ヤマネさん、外…行ってみる?」

 私の言葉を無視してそのまま出ていこうとするヤマネさんの後ろを追う。鬱陶しそうに私を振り返った。

「ついてくんなよ、邪魔だ」
「そ、そんな! 私だってチェシャのところに行きたい…!」
「後で行けばいいだろ」

 確かに邪魔なのは分かる。でも! むむむ、とヤマネさんを睨むと、深い溜息を吐いた。

「…わかったよ」

 私は笑みを浮かべて、部屋を後にした。


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