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「でも…僕は要らないって」
「責任感のない人は要らないと言いました」
「僕に責任感があると?」
「あなたは自分に与えられた仕事をきちんとこなす人だと思っていましたが、違いましたか?」
水星様は小さく首を振った。僕は目元を緩めて、水星様の手を取る。ぴくりと反応しただけで、振り払われることはなかった。
「…戻りましょう、水星様」
「……分かりました。リコールされる覚悟はないみたいですからね…。でも、待ってください。話して分かってもらえるというなら、話してみます」
水星様の言葉に嬉しくなって、はいと大きな声で返事をした。水星様は複雑そうな顔で笑う。
「……まさかあなたに諭される日が来るなんて思っていませんでした。ただ従っているだけだと思っていたのに」
「それは…」
脳裏にチェシャ猫の顔が浮かぶ。彼がいなかったら僕は水星様の命令に従い続けるロボットみたいになっていただろう。僕が水星様に逆らうなんてこと考えたこともなかったから。
「健吾?」
「あ――いえ、なんでもありません」
チェシャ猫のことを告げようと思って、止める。そういえば水星様はチェシャ猫のことをよく思っていなかっただろう。あまり話さないほうがいいかもしれない。
訝しげな顔で僕を見る水星様に苦笑を返して、歩き出した。
「ええ? なあんだ、意外に簡単だったね」
「水星様は根が真面目だから…」
「…まあ、一番真面目だったよねえ」
「……一ついいですか」
ひくひくと頬を引き攣らせている水星様に視線が集まる。
「どうしてこの男がここに! いるんですか!」
カッと目を見開いてチェシャ猫を見た。チェシャ猫はニンマリと笑っている。それが更に水星様を怒らせていることに気づいているんだろうか。…気づいてるんだろうな。
「生徒会室は許可された者以外立ち入り禁止でしょう!」
「僕は許可されてるんじゃないのかなー。ねえ、どう思う?」
視線がこっちに向いて、僕は気まずくなった。彼を招いたのは僕だ。いや招いたというか、勝手に付いてきたというか…。
「まあ、いいんじゃない?」
「良くないですよ! 僕はこいつが大嫌いなんです! 視界にもいれたくありません」
「傷つくなあ」
そう言うが、笑顔のままだ。傷ついたなんて全く思ってないだろう。
――しかし、水星様が戻ってきて良かった。仕事をしている時が一番輝いて見えるなあ、と溜まりに溜まった仕事に手をつけながら思った。
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