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「……限界、って。何を言ってるんですか」

 水星様の声は掠れていた。よく見ると顔色が少し悪い。胸がずきりと痛んだ。僕は、これからこの人に……弟に、酷いことを言う。

「僕たちはずっと待っていました。でも、あなたは転入生にべったりでしたよね。生徒会に責任感のない人は要りません」

 水星様はショックを受けたような顔で僕を見つめる。その顔を見たくなくなかったけど、僕は視線を逸らさなかった。

「ま、まさか…僕をリコールするつもりですか」
「そうです。…何もかも捨てる覚悟があるなら、何も言いません。僕はそう言いました。……本当に、地位も信頼も仲間も…全て失っていいんですか」
「そ、それは」
「勿論このことは、ご当主様の耳にも入ります」

 水星様は黙った。床をじっと見つめて、何度も瞬きをしている。きっとそれら全てと転入生を天秤にかけているんだろう。天秤にかけるということは、捨てる覚悟がないということだ。僕は安堵した。まだ、この人は戻って来れる。

「で、でも……カズマが」
「好きだからと言って、ずっと傍にいることなんてできませんよ。会うなとは言いません。自分のやるべきことをやってくれと言ってるんです。それに…転入生が心配だと言うなら、ご自分の親衛隊をどうにかしたらどうですか。今、一番転入生に反感を持っているのは、あなたの親衛隊ですよ」

 会長と会計、それから百緒も転入生から離れたからか、被害は少なくなっていた。しかし副会長である水星様が四六時中一緒にいることが原因で、小さくなりかけた批判が再び大きくなった。それは、転入生一人ではない。……水星様に対してもだ。

「親衛隊が僕の話を聞いてくれるとでも」
「あなたが皆に聞いて欲しいと思い、真剣に話したらちゃんと聞いてくれますよ」
「……本当に?」

 僕は頷いた。

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