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 …気のせいか。
 僕は木から慎重に降りてくる会長を待った。チェシャ猫は木の上からそれを眺めている。相変わらず何を考えているか分からない男だ。

「しかし、良く俺の居場所が分かったな」

 地に足をつけた会長は、感心したように呟く。

「偶然です。……僕は、これから水星様のところに向かうので、先に戻っていてください」
「…ああ、頼んだぞ」
「へえ」

 頭上でチェシャ猫の声がした。僕は視線を移す。楽しそうに目を細めて僕を見下ろしていた。

「僕に頼るの、やめたんだ」
「…ああ、できる限りやってみようと思って…」
「ふうん? …見直したよ、頑張ってね」

 まさかそう言われると思ってなくて。驚きに目を見開く。会長が苦笑して、僕の肩を叩いた。

「じゃ、戻ってるわ。後でな」
「はい」

 僕は去る会長の背を見送って、チェシャ猫にも一瞥をくれてからこの場を去った。水星様の居場所は分かっている。


















「……水星様」

 水星様は僕をぎろりと睨んだ。転入生と一緒にいるときに来たから余計に機嫌が悪いのだろう。
 僕がもう転入生を守らないということを伝えてから、水星様は転入生にべったりだった。転入生のことを任されていたのだから信頼していた…のかもしれない。今となってはどうでもいいことだが。

「あっ、健吾!」

 転入生は俺を見て大声を上げる。近くで見ても、接触しても、不快感しかない。どこがいいのかと切実に問いたくなる。

「どうも」
「なあ、熙知らねえ!? あいつ俺より仕事を優先して、サイテーだ! 謝らせねえと!」

 当たり前だろうと呆れ返った。自分がどれだけ偉いと思っているんだ。僕は小さく溜息を吐く。とりあえず、だ。会計が生徒会室にいると知ったら、この男は絶対生徒会室に行く。何があってもだ。どうにかしないとやばい。色々と。
 最悪の状況を想像して顔が引き攣りそうになった。

「悪いが、僕も知らない。…どこかでサボっているんじゃないか。例えば屋上とか」
「屋上か! 行ってくる!」
「ちょっ、カズマ! ……、どういうつもりですか」

 呆然と転入生を見送った水星様が目を細めて僕を睨んだ。僕は一礼して、しっかりと水星様を見つめる。
「水星様こそどういうつもりですか。…いつまで、こんなことを続けるおつもりですか」
「こんなことって」
「…限界です」

 静かに告げると、水星様の目が見開かれた。
 

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