▼ 狗馬之心 (同じ釜の飯を食う )
(side:健吾)
「ねえ、会長どこ行ったのさ」
会計がぶすっとしながら呟く。この言葉を聞くのは何度目だろう。僕はちらりと会計を見るだけで、黙ったまま手を動かしていた。
「もー、会長がいないと全然捗んねーよ。…俺、探してくる」
「……駄目だ、僕が行く」
「はあ? なんで」
「サボりたいだけだろう」
ぎくりと顔が強ばった。会長がいるいないに関係なく、会計の仕事は捗っていない。僕はペンを置いて、立ち上がった。
「ちょうど風紀に書類を持っていかないといけないからな」
「…あー、そうですかぁ」
会計は不満げに呟く。そこまでサボりたかったのかと呆れるが、ここ最近ずっとここに籠っているから、嫌になっているんだろう。
僕は別にサボりたいわけじゃない。本当に風紀へ持っていく書類があるし、それに……水星様のところに、行かないといけないから。
「じゃあ行ってくる……。サボるなよ」
「はいはい、わかりましたぁ」
本当に分かっているのかと問いたくなる声を背で受け、僕は生徒会室を出た。
「……え、何をしているんだ」
風紀へ行った後、庭園を歩いていると、木の上に人がいた。……しかも、見覚えのある人だった。
僕は呆然と彼らを見上げる。チェシャ猫と会長は、仲良く座っている。どういう状況なんだろう。…とにかく、どう見てもサボっているだろう、これは。
「か――」
「あ、書記さん」
会長に声をかけようとすると、チェシャ猫が首をこっちに向けた。つられて会長も僕を見る。
「ああ、お前何してんだ」
「……それはこっちのセリフなんですが」
「げ、そんな時間経ってたか?」
「あれ、会長さんもしかして仕事サボっていたの?」
「ちょっと抜けただけだ」
あれ、と思う。なんだか会長の顔が優しい。親しいのか――意外だ。会長のような短気の人はチェシャ猫が苦手そうなのに。
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