狗馬之心 (同じ釜の飯を食う )

(side:健吾)

「ねえ、会長どこ行ったのさ」

 会計がぶすっとしながら呟く。この言葉を聞くのは何度目だろう。僕はちらりと会計を見るだけで、黙ったまま手を動かしていた。

「もー、会長がいないと全然捗んねーよ。…俺、探してくる」
「……駄目だ、僕が行く」
「はあ? なんで」
「サボりたいだけだろう」

 ぎくりと顔が強ばった。会長がいるいないに関係なく、会計の仕事は捗っていない。僕はペンを置いて、立ち上がった。

「ちょうど風紀に書類を持っていかないといけないからな」
「…あー、そうですかぁ」

 会計は不満げに呟く。そこまでサボりたかったのかと呆れるが、ここ最近ずっとここに籠っているから、嫌になっているんだろう。
 僕は別にサボりたいわけじゃない。本当に風紀へ持っていく書類があるし、それに……水星様のところに、行かないといけないから。

「じゃあ行ってくる……。サボるなよ」
「はいはい、わかりましたぁ」

 本当に分かっているのかと問いたくなる声を背で受け、僕は生徒会室を出た。















「……え、何をしているんだ」

 風紀へ行った後、庭園を歩いていると、木の上に人がいた。……しかも、見覚えのある人だった。
 僕は呆然と彼らを見上げる。チェシャ猫と会長は、仲良く座っている。どういう状況なんだろう。…とにかく、どう見てもサボっているだろう、これは。

「か――」
「あ、書記さん」

 会長に声をかけようとすると、チェシャ猫が首をこっちに向けた。つられて会長も僕を見る。

「ああ、お前何してんだ」
「……それはこっちのセリフなんですが」
「げ、そんな時間経ってたか?」
「あれ、会長さんもしかして仕事サボっていたの?」
「ちょっと抜けただけだ」

 あれ、と思う。なんだか会長の顔が優しい。親しいのか――意外だ。会長のような短気の人はチェシャ猫が苦手そうなのに。

[ prev / next ]

しおりを挟む
[back]