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「女王が一番辛かっただろうね。嫌でも罰を下さないといけないから。それがルールだから。国を統べる者は、公平でなければいけないから」
「……そいつは、どんな情報を流してしまったんだ?」
「さあね……知りたくもないよ、そんなこと。ただ、隣国が脅しをかけてくる位には、凄い情報だったんだろうね」

 まあそれも随分昔のことで、今は良好な関係を築けているけど。そう付け足すと、会長さんの顔が安堵に変わった。
 変な人だ。以外にお人好しなのかなんなのか…僕の世界のことなんて、会長さんには関係ないことなのに。どうしてそんな顔をするんだろう。
 訊ねようとして、結局止める。そんなこと訊く必要がない。

「……最初はさ、姿がボヤけるだけだったんだ。でもね、段々姿が見えなくなっていって…最後には、声だけになる。耳元で声が聞こえるんだ。どうして無視するのかって。ずっと監視されてた。ずっと詰られた。ずっと…許しを請われたよ」
「まだ声が聞こえるのか?」

 形のいい目が見開かれる。僕は肩を竦めて見せた。

「そんなわけない――って、言いたいところだけど。実は、分からないんだよね。もう声が聞こえないから。ひっそりと消滅していったのかもしれないし、……今、会長さんの横にいるかもしれない」

 会長さんが顔を引き攣らせた。流石にこんなところまで付いてきてないって思いたいけどね。と付け足してあげた。

「そうだね、彼がどうなっているのか知ってるのは……本人と、女王くらいかな」

 女王は何も言わないけど、きっとそうだ。リコールされた者の末路をしっかり見届ける役目があるはずだから。

「存在は消えてもそれだけ皆の頭に残ってるのは…ある意味幸せかもな」

 遠くを見つめた後、そう呟く。僕は木の枝を撫でた。

「そんなことないさ。…だって皆、自分じゃなくて良かった。彼で、良かったって思ってるんだからね。もちろん僕も」

 会長さんが物言いたげにこちらを見る。お前もそんな顔をするんだなと言われた。……僕は、どんな顔をしてたんだろう。口元を少し触る。笑っていないことが分かった。

「でもそいつは――と、そういえば、そいつの名前は?」

 思い出したように訊ねてくる会長さん。僕はふ、と笑みを浮かべた。

「――忘れたよ」


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