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「いい風だね」

 ね、会長さん? と笑いかけると無言で睨まれちゃった。

「やだなあそんなに怒らないでよ」

 引っ張り上げようとしたけど、あ、これ無理だなと思って手を放したこと怒ってるみたい。まあ会長さん背中打ったみたいだし悪かったなって思うよ、うん。

「わざとじゃないからね」
「嘘くせぇ…」

 げんなりとしながら呟く会長さんにやだなあと言いながら僕は目を細めた。ううん、ほんとに気持ちいい風だなあ。ワンダーランドの風よりちょっと湿っぽい気がするけど、湿った感じもなかなかいいかも。

「それで、話は」
「ええーもうその話? 何かないわけ? ここに登って」
「……まあ、悪くはねぇんじゃないか」
「人間には分からないのかなぁ、この気持ち」

 確かにイカレ帽子屋たちもあんまり好んで登らない気がするな。アリスは僕が引っ張って連れて行くから他の人より多いかな。

「ま、今から話すけど聞き流す程度でいいからね」

 そうして僕は話し始めた。リコールがどういうものかということを。
 僕やヤマネなんかは世界を構成する重要な役を背負って生きている。別に何か特別なことをするわけじゃない。例えば女王はワンダーランドの頂点に立ち、裁きを下す。ハートのトランプは女王の親族で、お城で働いてる。それに比べたら僕なんて全然必要ない役だけど、ちゃんと役割はあるんだよ?
 役がない人たちもたくさん存在する。その人たちはいつ消えてもおかしくないしいつの間にか増えている。リコールされるということは役を持つのに不適切だって判断されて、そういうどこにでもいる存在感のない存在へとなってしまう。今まで親しげにはなしていた者が突然消えてしまう。逆に、リコールされた者は誰にも相手にされなくなる。それがどれだけ辛いことか、分からないけど、分かりたくないよそんなもの。
 リコールされた者を僕たちは知ってる。彼は──…。



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