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 もう用は済んだろうと会長さんに背を向けようとしたら、ちょっと待てと止められた。

「なあに? 何かまだ用があるのかな」
「用っつーか…」

 会長さんは言い淀んで、僕から目を逸らした。そして再度僕を見ると、口を開く。

「お前、何であいつらを説得した?」
「説得? 僕が? そんなことしてないよ。僕が言いたいこと言っただけ。リコールがい嫌なんだ、僕は」
「リコールが嫌いだからって、普通は関わらないだろ」
「普通って言われてもねえ…僕らの世界じゃ違うんだよ」

 会長さんは眉を顰める。

「そうなのか?」
「そうなんだよ」

 訊きたそうにしている会長さん。僕は肩を竦めて木にもたれかかった。

「知りたいなら別に話してもいーよ」
「は…? いいのか?」
「うん。その代わり、木に登ってもいいかな。ここ、風が気持ちいいし眺めもいいんだ」
「えっ…まさか俺も…?」

 顔を引き攣らせるのが面白くて笑うと、むっと顰めっ面。

「大丈夫、座り心地も最高だから」
「いやそんな問題じゃねえから!」
「じゃあ話さない。じゃあね」
「ちょっと待てコラ」

 木に手をかけたとき、会長さんががしりと僕の肩を掴む。会長さんの顔は強張っていて、無理してるのが丸分かりだ。
 そこまでして聞きたいのかな…? 面白い話でもないのに。良く分かんないや。
 僕はにんまりと笑みを向けて、ささっと木に登る。そして髪を耳にかけながら手を伸ばした。

「ほら、捕まってよ」
「あ、ああ…」

 会長さんの方が体大きいけど、ちゃんと引き上げられるかな?
 ずしりと重いそれを引っ張りながら、僕は思った。 


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