彼の末路(老兵は死なず 消え去るのみ )

(side:チェシャ猫)



 教室に戻ると、りゅーいちくんが遅かったなと言って、続けて何の話だったんだと訊いてきた。

「副会長さんのこと、どうにかしてくれないかって頼まれたよ」
「はあ…? なんでお前に…」

 そこまで言って、納得したように頷いた。

「会計のこと聞いてか」
「みたいだよ」
「それで、…どうしたんだ?」
「猫クン、まさか引き受けたとか言わないよね?」

 何だか皆真剣に見てくるから、僕はにやりと笑った。

「引き受けたよ」
「は!?」
「嘘だよ」

 じとりと睨まれて僕は肩を竦めた。
 まあ、嘘書記さんが無理だったら僕がなんとかするってことになってるんだけど、それは別に言わなくていいか。

「ところで、センセーは?」
「……さあ? もうこねーんじゃねえの」
「ふーん」

 先程までヤカタニがいた教卓を一瞥して、僕は机に伏した。
 ああ、眠いなあ。今日は暖かいし、大きな木の上で寝たいなあ。固くて冷たい机の感触を感じながら僕は目を瞑った。

















 数日後、木の上で過ごしていると、会長さんが現れた。最後に会った時よりかなり顔色が良い。こっちに近づいてきているのは分かったけど、僕は見なかったふりをしてゆらゆらと尻尾を揺らした。

「おい、猫」

 うわあ、呼ばれちゃったよ。僕は会長さんの方を見ずになあにと答えた。

「降りてこい」
「ええ? 何で」
「いいから降りてこいって」

 このまま放っておいたら面倒なことになりそうだなと思って跳んで降りると会長さんは驚いた声を上げて体を引いた。

「危ねーな!」
「会長さんが降りてこいって言ったんだじゃないか。……それで、僕に何か用?」
「ああ…まあ、これ、やる」

 すっと目の前に出されたものは、いい匂いを漂わせる袋。僕はそれを一瞥してから会長さんを見る。

「餌付けでもするつもり?」
「ちげーよ。…これは、礼だ。会計のことと、あと、書記のことも」

 僕は袋を受け取って匂いを嗅ぐ。うん、甘くていい匂いだ。アリスが淹れた紅茶飲みたくなってくるなあ。僕は顔を緩ませた後、書記という言葉に首を傾げる。

「書記さんがどうしたって?」
「あいつも仕事サボってやがったからな」
「ふーん…? ああ、そういえば副会長さんはどうしたの」
「あいつは…まだ、時間がかかりそうだ」

 会長さんは苦笑する。
 書記さんが何も言ってこないということは、自分で何とかするつもりなのかもしれない。まあそれはそれで面倒が減っていいんだけど。

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