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本当は気づいていた。学園より、居場所をなくすことが怖いということに。僕を必要としてくれているのは水星様だから、彼に嫌われてしまったら、どうしたらいいか分からない。……僕は自分のことしか考えていなかった。
嫌われたらどうしたらいいと言う僕の言葉に、チェシャ猫はあっけらかんとした様子で答えた。
「嫌われたら嫌われた時だよ」
ええっ?
僕は呆然としてチェシャ猫を見上げる。にいっと笑うチェシャ猫は本当に猫のようだった。
「まずやってみなよ。それでどうしても無理だったら――僕のところに来れば? 僕、リコールってやつ、大嫌いなんだよね。だからリコールなんて、見たくないんだ」
どうしても無理だったら――。
期待するような目で見ていたのか、チェシャ猫は念を押すように無理だった時だけだと言葉を繰り返した。
チェシャ猫という男は不思議だ。優しいのか優しくないのか分からない。ピエロのように厭味たらしい顔で笑う癖に、リコールという言葉を口にしたとき、思わず大丈夫かと問いたくなるような顔になる。不思議だ、と思った。
さて。僕はこれから水星様の命令に背かなくてはいけない。丁度水星様から呼び出されたので、僕はチェシャ猫と別れて水星様の元へと向かっていた。もし駄目だったら彼がいるという安心からか、足取りは思ったより軽かった。
「健吾」
水星様の近くまで寄る僕に気づいて綺麗な顔がこっちを向いた。
「どうなさいましたか、水星様」
「あなた、どこにいたんですか。カズマのことを守っていろと、言ったはずですが」
冷めた目でぎろりと睨まれ、汗がたらりと流れた。
「……なにか、ありましたか」
「親衛隊に呼び出されました。幸い怪我はありませんが……呼び出されたことに問題があります」
「あ……」
背く。逆らう。決意したばかりのその言葉がぐるりぐるりと頭の中を廻り出す。
「あ、の、…僕、は」
水星様が僕の言葉を待っている。
言わなきゃ。僕は、唇を噛んだ。
「僕…は、仕事をしなければ…いけない、ので」
「……は」
水星様の綺麗な形の目が見開く。僕はもう一度はっきりと言った。「仕事をします。山根くんのことを見守るのはできません」
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