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 僕は屋上に向かった。前もって鍵を厳重にかけていたので、今日は人がいないはずだ。鍵も壊されていない。人がいないのを確信してドアを開ける。

「それで、副会長さんの話っていうのは?」

 いきなりか。
 振り返ってチェシャ猫を見ると、耳がひょこひょこと動いていた。それは、風を受けてなのか、それとも。……いや、それとも、なんてことは有り得ない。何を考えているんだ、僕は。いくらリアルな猫耳だとしても、猫耳なんて非現実的な物、人間に生えるわけがない。チェシャ猫は目を細め、僕を見る。しまった、見すぎだったか。僕は誤魔化すように咳をした。
 …さて、何から話すか。そう悩んでいたが、僕の口からはするりと会計という言葉が出た。何をしたのかと訊ねてみるが、返ってきたのは何もしてないの一言だけ。そんなはずはないんだ。あの会計が…元から少し不真面目だったあの会計が戻ってくるということは簡単ではない。会長の言葉でさえ流していたのを見たことがある。それを、こんな如何にも怪しくて得体の知れない男が、会計を変えたのには何かやったに違いない。僕はもう一度確認した。しかし、答えは同じだった。加えて、僕にも分からないと言われた。そうか、と諦めの気持ちとともに出た言葉に、ごめんねと言葉が返ってくる。こんなに謝る気持ちのないごめんねは初めてだ。
 …会計のことはいい。僕は、水星様について話したいんだ。
 あの会計を戻せるくらいだから、会計より遥かに真面目な水星様を戻すこともできるんじゃないか。
 水星様も戻してあげてくれないか。そう言うと、チェシャ猫が面倒そうに顔を顰めた。僕は藁にも縋るような気持ちで、このままだとリコールされるということを伝えた。すると、チェシャ猫の眉がぴくりと動いた。リコールという言葉に反応したらしかった。

「あー…そうか、副会長さんもだったか…」

 も、ということは会計がリコールの危機にあったということを知っていたということか。

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