逆らうこと(当たって砕けろ)

(side:健吾)

 転入生にべったりだった会計が仕事をやり始めたと聞いた。まさかと思って生徒会室に行くと、本当に仕事をしていた。何故いきなりと思っていると、会計は目を覚ましてくれた奴がいると言う。ではそれは誰か? ――会計の口から出たのは「チェシャ猫」という人物だった。会ったことはないが、水星様から忌々しげに名を口にしていたことがあったので、存在だけは知っていた。本名は分からない、聞くところによると耳と尻尾が生えているという。謎だ。そして一番謎なのが、何故会計を正気に戻したのかだ。生徒会に媚びるような奴ではないそうだから、余計に分からない。その男は一体何をしたいのだろう。
 チェシャ猫のクラスはすぐに分かった。あの問題児クラスだ。僕は彼に一度会ってみたいと思い、担任の館貳先生のもとへ行く。彼に話があるのだと言えば、館貳先生は面白そうに口を歪め、ついてこいと僕に言った。










 教室は僕のクラスと違って、ざわざわと騒がしい。僕は痛む頭を押さえ、溜息を吐いた。……この学校の恥だ、このクラスは。そういえば転入生の取り巻きに、このクラスの百緒がいたはずだが、彼は最近見かけないな。もしかしてこれにもチェシャ猫が関係しているのではないだろうか…?
 考えていても仕方ない。ドアのところで待っていろと言われたのだが、……いくら待っても呼ばれない。僕は痺れを切らしてドアに手を掛けた。

「あいつが話してえのは副会長のことじゃねえか」

 館貳先生の声が聞こえる。僕はドアを開けて、その通りですと答えた。いつまで待たせるのかと文句を言えば、腹の立つような笑みで謝ってくる。流石はこの問題児クラスの担任だ。
 僕はぐるりと教室を見る。一人だけとても目立った生徒がいた。なんということだ。本当に耳が生えている。あれは何だ……? 趣味、なのか?
 彼と目が会って、ざわりと胸が騒いだ。僕はその動揺を悟られたくなくて、口を開く。ついてきてくれるかという質問に答えたのは、なんとあの百緒だった。僕をぎろりと睨んでくる。転入生の犬と言えば、僕が犬だと言われてしまった。…その通りなので何も言い返せなかった。
 すると、チェシャ猫が近寄って来た。来てくれるらしい。ほっと安心すると同時に、緊張した。会ってみても、彼のことは良く分からない。彼は、謎だ。

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