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逆らえない? 僕はくいと眉を上げる。
「なあに? 逆らったりでもしたら、殺されちゃうの?」
「殺されっ…!? そ、そんなわけないだろう! 何を言っているんだ」
書記さんはくわっと目を見開くと、大きな声を上げた。うわ、唾が飛んできそうで嫌だなあ。思わず眉を寄せると、書記さんはごくりと唾を飲み込んだ後、突然声を潜めた。あれ、何か顔青いね。
「も、もしかして君の家は…、逆らった者にはそういう処罰を?」
「うん? まあ、…そうだね」
女王もルールを破った者には厳しいし、帽子屋はそれ以上だ。処罰が全て死刑ってわけではないけど、まあそういうことでいいでしょ。あんまり変わらないから。
頷くと、更に書記さんの顔が青ざめた。すすす…と後ろへ下がるのが面白くて笑みを浮かべる。そういう反応されると、もっとからかいたくなっちゃうなあ。
「殺されるわけじゃないなら、いいじゃん。何で逆らえないの?」
「それは…僕があの人の側近だから」
「側近だと逆らっちゃいけないの?」
「っ……僕を、妾の子なんかの僕を側近にしてくれたんだ。恩を、仇で返すわけにはいけない」
「ふうん。…それで?」
「え?」
書記さんは目を丸くした。僕は笑みを深める。
「それで、書記さんは何をしていたの?」
「何って…」
「仕事は? していたのかな」
「……そ、それどころじゃなかったんだ。水星様が…」
「ミズボシサマに『仕事なんてどうでもいいから、カズマを危険から守れ』とでも命令されたから断れなかった――とか?」
「っ……!」
ハッと息を飲む。書記さんの額にはじわりと汗が滲んだ。
「そうだね、副会長さんの言葉には逆らっちゃいけないんだもんねえ。……じゃあ、副会長さんが死ねとでも命令したら君は死んじゃうのかな」
くすりと笑うと、書記さんの目が吊り上がる。
「水星様がそんな命令をするわけがない!」
「する可能性があるないの話なんてしてないんだよ。……したら死ねるのかって話」
「っ…そ、それは、」
きょどきょどと目が泳いで、挙動不審になる。ここで死ねると即答できたのなら……合格だったけど、こんなものかあ。
「死ね、はちょっと軽すぎたかな? うーん、そうだなあ…自分の一番大切な人を殺せ、とかどうかな。勿論できるよね? 君に人の人生を壊すことなんて、ミズボシサマの命令に背くことより全然軽い――」
「やっ、やめてくれ!」
とうとう書記さんは叫んだ。
「そんなこと、できない!」
「……逆らえない? 全ての命令に従うことなんてできないのに? 言い訳がましいね」
最後ににこりと笑って見せれば、書記さんはふらりと体をふらつかせ、そのまま床に倒れこむように座った。
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