僕と食堂(名馬に癖あり)

 僕は次に母国語(英語というらしい)の教科書をペラペラと捲った。うん、これなら僕にも普通に分かるな。それにしても日本語っていうのは難しいね。漢字という複雑なもの(目が痛くなる。何であんなにゴチャゴチャしてるんだろう)に加えて平仮名、片仮名――様々なものを使いこなさなければならない。別に勉強が嫌だとかそういうわけではないから苦にはならないだろうけど。新しいことを知るのは好きだしね。Yは勉強は退屈するやら面白くないやら言ってくるけど、まあそれは僕自身が決めることだし、第一まだやってもないんだから分からないじゃないか。口を緩ませて言うと、Yはどうでも良さげに苦笑した。










 ある程度の知識を身につけた僕は、次は寮案内をしてやるよと偉そうにしているYについて行く。明らかに無駄な装飾品はやはり女王の城と酷似していて。僕はちょっとだけ懐かしくなった。
 寮の一階にはロビー、大浴場、売店があって二階から四階までが生徒の部屋らしく、(僕の部屋は三階だ)各階に二ヶ所ランドリーがある。五階には食堂や洋服店、雑貨屋などの店。そしてなんと遊技場もあるらしい。暫くは退屈しなさそうだ。
 そろそろ昼にするかと言ったYに賛成し、僕らの足はそのまま食堂に向かった。










 食堂は人で溢れかえっていた。必然的に人の声も多く騒々としている。僕の世界―ワンダーランド―は人口が少ないから(今まで別に少ないと思ったことなんてないけど、これを見せられるとそう思うのが当然だと思う)こんなに人で溢れかえっているのは初めてみた。それに皆楽しそうだ。僕らは自分が全て、みたいな面があったからこうやって親しげにしているのも珍しく映る。
 僕とYが入ると活気づいていた食堂は水を打ったように静まり返った(この諺は先程Yに教えられたものだ)。それにしても不躾に人を眺められるのは、何ていうか気分の良いものじゃないよね。こんな風に大勢の人に見られたことなんてなかったし。それに主に視線は新参者である僕の姿――つまり、耳や尻尾、派手な服装(Y曰く僕は派手らしい)に注がれている。落ち着かないし、嫌な気分だったけど何とか自分を押さえ込んでにこり(訂正、にやりと、だ)と笑った。――瞬間。男にしては高い声と、独特の低い声が響いた。こんなこと初めてだった僕は思わず素で目を丸くした。

「あの人誰!?」
「高萩様今日も格好いい…!」
「あの耳と尻尾、本物かな!?」
「ばっか、んなわけないだろ!」

 えーと、何なのこれ? 横にいるYを見ると、彼はさも当然といった感じに立っていた。

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