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「それで、副会長さんの話っていうのは?」

 着いたのは屋上だった。風を受けながら首を傾げてみると、書記さんはじろじろと僕を観察し始める。猫耳の辺りで視線を留め、何か言いたそうに口を歪めた。

「なあに?」
「いや…」

 うろうろと視線を漂わせた後、こほんと一つ咳をして、僕を真っ直ぐに見つめる。綺麗な目だと思った。僕は目を細める。綺麗な目だけど――生気があまり感じられない目にも見えた。

「君は、会計を正気に戻したらしいな」

 正気って。僕は堪えきれず笑ってしまった。書記さんは不思議そうな顔をする。会計さんは正気じゃなくなってたのかあ、そっかあ。確かに仕事はサボってたけどね。

「うん、らしいね」
「何をやったんだ?
「何もやってないよ」
「……そんなことはないだろう」
「ううん、ホントに」

 僕も良く分からないんだよねえと肩を竦める。書記さんは口元に手を遣って黙り込む。

「…ふむ、そうか」
「うん、ごめんね?」
「……それで、副会長――水星様のことだが」

 副会長さんってミズボシっていうんだ。っていうか、様付けなんだ。生徒会って仲間とかそういうものだと思ってたけど、意外に上下関係があるのかな?
 会計さんのことは会計って呼んでたよね。

「水星様も……正気に戻してあげてくれないか」
「うん?」

 ええ? 何で僕が?
 面倒だなあと思っていると、書記さんの眉がぐっと寄った。

「このままでは…リコール、されてしまうんだ」
「あー…そうか、副会長さんもだったか…」

 リコール。リコールねえ…。副会長さんって僕のこと凄く嫌いみたいだから、説得は難しそうだなあ。

「何で僕なの? 君がやればいいじゃない」
「僕の話には耳を貸さないんだ……それに、僕は、あの人に逆らえない」

 書記さんの目が曇った。

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