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「……猫、お、はよ」
「ああ、モトヤ。おはよう」

 朝の挨拶をすると、モトヤの瞳が不安げに揺れた。

「…げんき、ない?」
「……。やだなあ、モトヤ。僕は元気だよ」

 モトヤは一瞬悲しそうに目を伏せて、そっかと答えた。モトヤは馬鹿だけど、空気が読めないわけじゃない。僕はゆらりと尻尾を揺らして笑った。














「おっまえ久しぶりだなー! サボリ魔め!」

 教室に入ると、ケイタが飛びついてきた。僕の肩に手を回すと、いやー寂しかったぜと鳴き真似をし始める。モトヤが心なし冷めた目をしている。そしてべしっとケイタの手を叩いた。悲鳴を上げて、摩るために肩に回った手を退けた。

「サボってたわけじゃないよ」
「じゃあ何? どしたん」

 少し離れたところからマサキが訊ねてくる。僕は肩を大袈裟に竦めて見せた。

「ちょっと来れない事情があったのさ」
「事情?」

 ケイタは手を摩りながら首を傾げた。若干涙目だ。そんなに痛かったのかなと思いながら頷く。

「でももう終わったよ」
「ふーん?」

 もっと突っ込んでくるかと思ったら、意外にも引いてびっくりだ。でもケイタが凄く訊きたそうな顔をして面白かった。きっと、訊いちゃいけないんだろうなとか思ってるんだろう。別にそんなことないけど、説明が面倒だから良かったな。

「おい、何やってんだよんなところで」
「あ、りゅーいちくん。おはよう」
「……おう」

 後ろから聞こえた声に反応して振り返ると眠たそうなりゅーいちくんが立っていた。
 挨拶すると、少し照れくさそうに顔を逸らす。そして突然キョロキョロとし始めた。

「……あいつはいないんだな」

 イカレ帽子屋のことか。

「帰ったよ」

 りゅーいちくんは目を見開いたけど、それも一瞬のことで、すたすたと自分の席へと歩いて行った。

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