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「風紀が…?」

 どういうことだ? もしかして、奴にも正体を話していたのか…? 何だか面白くなくて顔を歪めると、煕がわたわたと手を振った。

「いや、別に俺信じてるわけじゃないよ!? 風紀委員長が勝手に言ってただけだから!」

 ふざけたことを言って俺を不機嫌にさせたと勘違いでもしてるのか、そんなことを言ってきた。俺は適当に返事をして、風紀の顔を思い出す。風紀――畑岡なら猫に目をつけて近づきそうだ。それこそ、俺よりも先に知っていてもおかしくない。猫は何も言っていなかったが。……いや、わざわざ言わないだろあいつは。
 ……と、待てよ。今さっき、こいつは本物だと思う、と畑岡が言っていたと、そう言わなかったか。ということは、正体を知っていると判断するのはまだ早いんじゃないだろうか。訊いてみるか? 猫は答えなさそうだし、直接畑岡に……って、それはおかしいだろ。なんで俺があいつのことでわざわざ嫌いな奴のところに行かないといけないんだ。俺は仕事以外であんなクソ野郎のいるところに行きたくねえ。

「畑岡は他に何か言ってたか?」
「え? えーと…何か言ってたかなあ?」

 使えねえ。

「つーか、そもそもなんでお前にそんな話をしたんだよ」
「うーん…。あ! そうだ、俺が猫耳に触ろうとしたからだよ!」
「は?」

 触ろうとした? 眉を顰める俺を余所に、うんうんと頷く煕。

「おい、どういうことだ」
「いや、カズマが耳に触りたいって言ってー、その時に、あいつの笑顔が固まってね。触られたくないんだあって思って、うん」

 笑顔が固まった…単に耳を触られたくないのか、それともこいつらにはバラしたくなかったのか。あいつの考えてることは良く分からねえな。
 ただ、リコールという言葉に反応していたことが気になる。ワンダーランド、だったか? あいつのいた世界では、リコールが重要な意味を持っているのだろうか。

「触ろうとしたっつーことは、触らなかったんだな」
「うん、あの帽子被った奴に蹴飛ばされたからね。気がついたらベッドの上だよ」

 ……ああ。そういう理由であの男を怒らせたわけか。

「会長はどう思う?」
「…本物なわけねえだろ」

 俺は咄嗟にそう言っていた。別に言っても良かったはずなのに、あいつの正体を知っているという優越感がそれを邪魔したのだ。


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