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 客観的に見てみると、あれ、と我に返るんだよな。仕事のことがなかったら俺も煕みたいになっていたかもしれない。

「ていうかね、怒られちゃったよ。なんで俺のとこ来なかったんだーって。俺は、心配した、とか大丈夫だった、みたいな言葉が一言でも欲しかった、かな…」
「そうだな。それで、仕事する気になったのはどうしてだ? あんなに拒否続けてたっつーのに」
「それは、……うん。俺を信じてくれてる人を裏切りたくないな、って」

 少し驚いた。ついこの間まで周りの奴らなんか気にしていなかった奴の発言とは思えない。猫のあの発言が効いたのだろうか。それならば、あいつに感謝しなければならないな。絶対本人には言わないが。

「とりあえず明日からどんどん仕事やってもらうからな」
「…うん、頑張るよ」

 ……素直だな。
 俺はこの空気にむずむずして、コーヒーを淹れるために立ち上がった。








 コーヒーを渡すと、煕は笑みを浮かべて受け取った。

「あ、そうだ、会長」
「あ?」

 突然そわそわとしだす煕。何だ気持ち悪い。眉を顰めて見ると、煕は先程よりぼそぼそとした声で話しだした。

「あの…会長って、あいつと仲、いいよね」
「……またその話かよ」

 いい加減にしろよと思って溜息を吐くと、煕は慌て出す。

「いや、その、……ちょっと気になることがあって」
「気になること? 何だよ」

 俺はコーヒーを口に含んだ。

「あいつの猫耳って、本物じゃないよね?」
「……っ、!? ゲホッ、ゲホ」

 コーヒー噴き出すかと思った。

「え、大丈夫?」
「……、あぁ」

 不思議そうにしている煕に頷いて見せる。……こいつ、何言ってんだ? なんであいつの耳が本物だって――。じゃないよね? と訊いてくるということは、あいつが言ったわけじゃなさそうだな。つーか、そんな話にならないだろう。あんなにギスギスした空気を出してたんだから。

「…なんでそう思った?」
「風紀委員長が、本物だと思うって、言ってて」

 意外な人物が話題に出て来たことに、俺は目を見開いた。

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