僕とカードキー(砂上の楼閣)

 寮に着くと、Yがカウンターにある呼び鈴を鳴らした。鈴の音って和むよね。汚れがないっていうか。
 暫時して奥のドアから人が出てきた。

「はいよーっと」
「どォもっす」
「高萩っちじゃん、おかえりーって…あれ? その子だあれ?」

 ニコニコと笑っている姿は女の子のように可愛かった。背は僕らより大分低くて子供みたいだ。僕の姿を視界に入れると、大きな瞳を丸くさせた。

「あァ、こいつ明日から通う奴なんだケドサ」
「へぇ、そうなのっ?」
「資料に混じってねぇかな。さっきサ、新しい紙とか届かなかったか?」
「あー、あれね! ちょっと取ってくるっ」

 ふわふわの茶髪を風に乗せ、カウンターの奥へ消えていった。アリスみたいで少し和む。否、アリスの方が可愛いけどね。

「そうそう、お前の存在を恰も前からいましたっていうのはできねぇんだけど、お前がここに通うことになるっていう既成事実としては生み出せるから」
「ふーん、なんか難しいね」
「そういうのはニヤニヤしながら言うんじゃねェヨ」
「おまたせっ、えっと、チェシャ猫くん? でいいんだよね。」
「そうだよ」
「じゃあちーちゃんね! 僕は寮長の雛森弥生。宜しくね。何か問題が生じたときとかはいつでも来て大丈夫だよ。じゃあこれ、部屋のカードキー。ちーちゃんは三○七号室ね」

 うん、何やら新しい愛称(渾名)ができたようだ。別にいいんだけど、ちーちゃんなんて何か新鮮だ。取り敢えず可愛いから許す! なんちゃって。







 ――ということで(どういうことだよって突っ込みはナシね)、今部屋の前にいるんだけど。カードキーってやつの使い方が分からないんだよね。え、Yに訊けって? それがさ、隣でニヤニヤ(ちょっとキャラ被ってるよ)してるだけなんだよね。分からないのを知ってる癖に意地悪だなあ(なんて、僕が言えることじゃないけどさ)。どうせ、僕が訊かないって分かってるだろう。こっちだってYの考えは分かっている。四苦八苦して鍵を開ける様が見たいのだろう。お生憎様、Yの思惑通りになってやるものか。僕は乾いた口を舐める。

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