俺とクソネコ(沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり)

(side:煕)






 にやりと気味の悪い笑みを残して、猫野郎は去って行った。俺は胸糞悪い思いで布団をぎゅっと握り締める。
 近くで溜息を吐く音がして、そっちを見る。……会長、まだいたんだぁ。

「……なんなのあいつ」
「さあな」

 肩を竦める会長は、何となく機嫌が良さそうだ。俺はムッとして会長を睨みつける。俺があんなにボロクソ言われたのに!

「さあなって、会長あいつと仲いいんでしょ」
「はあ? 良くねえよ」
「嘘だ! だって…!」
「あいつは…まあ目は離せないがな。それは問題起こすからであって、別にあいつが気になるわけじゃねえよ」
「じゃあなんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「嬉しそう…? 俺が?」

 会長は眉を顰め、口元に手を遣る。数秒もごもごと口を動かして、結局そうかもしれないなと言った。ほら、とムカムカしながら呟く。あの厭味な顔を思い出して更に苛立った。

「俺は…今のお前よりは、あいつの方が好きだ」
「……ふーん」
「あいつの言ったことちゃんと考えろよ。お前、本当にリコールされていいと思ってるか?」

 ずしりと胸が重くなる。あいつの言っていることは……大袈裟だったけど、でも、そうかもしれない。俺は仕事してないんだから、リコールされてもおかしくない。確かに生徒会なんて別になりたくてなったわけじゃない。だけど、生徒会が全て苦痛だったわけじゃない。仕事が楽しいって感じる時もあった。
 カズマが来てから…皆、カズマに夢中になって。俺も、って仕事を放りだして――あれ? 俺はカズマのどこに惹かれたんだっけ? 気がついたらカズマにべったりだったような…。

「……そういえばカズマ…」
「カズマ?  …遊んでるんだろ、琉生たちと」

 来ないからおかしいと思ってたら…ふーん…遊んでるんだ。俺が蹴られたところ、見てたはずなのにな。
 俺はちらりと会長を見る。…さっきも思ったけど酷い顔だ。きついんだろうな、ってのがすぐに分かる。……そうさせたのは、俺ら、なんだ。俺たちが仕事しないから。

「…つーか、あいつも出て行ったし、俺も行くわ。じゃあな」

 そう言って会長は俺の方を一度も見ずに、出て行ってしまった。
 リコールとカズマ。どっちを手放すのが惜しいか――わかってるんだろ? 警告めいたその声が、脳内で聞こえた気がした――。




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