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 保健室に入ると、会長さんが白いカーテンを指差した。

「あそこだ」

 僕は足音を立てずに近寄ると、しゃっと勢い良くカーテンを引いた。びっくりしたように目を開く会計さんは、僕と会長さんを交互に見遣る。

「なっ…!?」
「やっほー」
「なんでお前がここに…! っていうか会長何で戻って来たの!?」
「こいつがここに来るって言うから、見張っておこうと思ってな」

 会計さんが僕を睨んだ。

「帰ってくれるかな〜? 俺お前の顔見たくないんだけど」
「うん、言いたいこと言ったらすぐに帰るよ」
「言いたいこと…?」

 眉を顰める会計さんににやりと笑ってみせると、不愉快そうに歪んだ。それを見て更に笑みを深くしたところで、会長さんが疲れた声でさっさとしろと僕を急かす。

「そこの会長さんがこの前言ってたんだけどね?」
「会長が…?」

 ちらりと会長さんを見ると、訝しげな顔で僕を見ていた。

「おい、何言うつもりだ」
「まあまあ、会長さんは黙っててよ」

 じろりと睨むと、目を見開いた後、舌打ちをして僕から顔を逸らした。

「君たち、仕事してないんだってねえ?」
「……はあ? だから何?」
「リコール、するんだって」

 会計さんの顔が硬直した。ついでに会長さんの顔も硬直した。

「おい、」

 黙っててって言ったからか、会長さんは何か言いたげな顔で口を閉じた。会計さんは――笑った。

「だからさあ、それが何? リコール? 別にやりたくてやってるわけじゃないし。むしろ歓迎っていうかあ? カズマともっと遊べるし、仕事とか超めんどーなことやらなくていいし、いいことだらけだよね」
「ふーん…」

 ワンダーランドの住人が聞いたら、怒りそうだなあ、その言葉。特に、女王とか。

「君にとってリコールっていいことなんだ?」
「そう言ってんじゃん」
「リコールされたらどうなるか、知ってるの?」
「はあ…? ただ生徒会から一般生徒になるだけでしょ」
「甘いねえ。リコールっていうのは、信用をなくしたのと一緒なんだよ? 今はまだ見放されてないけど、リコールされた瞬間、君は誰からも相手にされない可哀想な奴になるってことなんだよ? 誰の視界にも入らない――それって、死んでるのに等しいよね」

 僕たちの中のリコール――それは、死だ。役の剥奪、それは僕たちにとって何より恐ろしい。

「おい…」

 会長さんが僕の肩に手を置く。それで我に返った僕は、慌てて笑みを作った。


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